人気選手ではあったが、「ここまで!?」と思ったほど…。試合後、上原はスタンドに詰めかけた巨人ファンへに感謝の言葉を述べた後、ベンチに「球、遅っ」と出迎えられたことも明かしていた。
10年前は、140キロ台後半のストレートを投げていた。その当時を知るコーチ、ベテラン選手が130キロ台前半にまで落ちたボールを冷やかしたわけだ。そういう軽口が飛び交うということは、上原はすでに古巣と打ち解けているのだろう。
「チームに帰還してまだ1カ月も経っていないベテランをオープン戦で投げさせたのは、救援投手の頭数が足りないからです。計算の立つリリーフ投手が少ない、苦しい台所事情が露呈したとも解釈できます」(プロ野球解説者)
チーム関係者によると、メジャーリーグと異なる日本の小さめなボール、柔らかいマウンドに、上原はまだ違和感を持ち続けているという。本調子に戻すまでにはもうしばらく時間がかかりそうだが、130キロ台前半にまで“衰えた直球”で日本ハムの上位打線を抑え込んだのは、「貫禄」ではない。日本とは異なる「投手能力」を測るメジャーリーグ流の計算式があったそうだ。
「ひとつは、バーディカル・ムーブメントですよ」(前出・関係者)
メジャーリーグでは投打の成績を示すデータを細分化し、チームで共有しているのは有名だ。
上原は球速こそ衰えたが、理論値と実際値を比較して算出された 「バーティカル・ムーブメント」なる指標を持っている。130キロ台前半でも、対戦バッターに「速いボールだ」と感じさせているわけだ。
「首脳陣の中からは上原獲得に批判的な意見も聞かれました。救援陣の頭数が足らないことや、バーティカル・ムーブメントの数値を説明して納得させました」(前出・同)
また、上原は大きな故障を負ったこともない。ベテランの域に達しても存分に投げられるのは、メジャーリーグ式の調整法のおかげだという。上原に限った話ではないが、メジャーリーグの救援投手はシーズン中、ベンチ入り登録されていても「投げない日」が設けられている。
日本の場合、中継ぎとクローザーで調整方法は異なる。中継ぎは勝敗に関係なく、試合展開を見ながら肩を作る。ブルペンで肩を作って待機していても、登板のお声がかからないケースもある。しかし、9回最後の1イニングを任されるクローザーは勝ちゲームでしか肩を作らない。中継ぎ投手の方が負担が大きいのだ。
しかし、メジャーリーグは少し異なる。「この投手は3連投させない」「こちらは4連投可能」など、年齢や体力差によって線引きしていて、中継ぎ投手を順番に休ませている。そのサイクルも通達されているので、登板ナシとなった中継ぎ投手は試合前のキャッチボールもしない。
それを模倣する日本のプロ野球チームもあるが、メジャーリーグほど明確にはされていない。今後、巨人の救援陣は上原からメジャー式の調整法を学んでいくという。
「上原が40歳を過ぎても一線で活躍できたのは、メジャー式の調整が合っていたからでしょう。負担の大きい中継ぎ投手は短命な傾向があり、日本球界もさらに調整方法を研究する必要はありますが、いきなり大きく変更するのは無理がある」(前出・プロ野球解説者)
上原のすごさについては、説明しなければわからない部分もあるようだ。今後、巨人は投手の能力判断のため、バーティカル・ムーブメントの測定を定着させるそうだが、大半が入れ代わり、経験が浅い今の若い巨人投手陣が付いていけるかどうかは疑問だ。