とはいえ、今や原発自体が白い目で見られるありさま。実際、インターネットの掲示板には「国民の多くが原発ゼロを願っているご時世に困ったものだ」「日立はババを引いている。将来の子供たちに核廃棄物処理という重いツケを残してばかりだ」など、個人投資家の批判的な書き込みが溢れている。
ここに言う“日立のババ”には多少の説明が要る。ホライズンはドイツの大手電力会社2社が設立。英国内2カ所に建設した原発が老朽化したことから、隣接地に原発4〜5基を建設する計画を立てた。ところが、昨年3月の東電福島第一原発事故の直後にドイツ政府が「脱原発」政策に転換したことから、電力会社は新規の原発建設から撤退。ホライズンの売却を決断して入札にかけた結果、日立がライバルを競り落とした図式である。
発表会見で日立の羽生正治執行役常務は「(海外で)原子力発電所を建設する場所が欲しかった」と買収の目的を力説した。原発の建設費用は「精査中」として公表しなかったが、関係者によると原発建設は「1基5000億円前後」とされており、日立にとっては膨大な先行投資となる。これに対して投資マネーの回収には「順調に運んでも20年余はかかる」(関係者)のが実情。これでは中西宏明社長をはじめ日立首脳が「東電事故の悪夢再現だけは御免被りたい」と、神にも祈る心境になったとしても無理はあるまい。
ところが、日立は原発の海外進出への野望をたぎらせる。バルト3国のリトアニアでも、昨年7月に原発建設の優先交渉権を獲得。近く同国政府と正式契約し、2021年の稼動を目指す計画だった。そんな折、先ごろ実施された国民投票で、原発建設に対する反対が6割を超えたことから、にわかに雲行きが怪しくなってきたとの報道が相次いでいる。しかし、業界筋はいささか楽観的にこう話す。
「国民投票には強制力がない。しかも同じ日に行った議会選挙で第1党となった野党労働党は、当面の条件付きながらも原発計画の継続を表明しています。福島の原発事故への関心が高い反面、その経験に基づくノウハウが蓄積されているだろうとの“期待”も、リトアニアにはあるようです」
確かに日立は、東電福島第一原発で1号機と4号機を主契約者として納入したほか、福島第二原発の2号機と4号機、柏崎刈羽原発の4〜7号機、中部電力浜岡原発の1〜5号機などの納入実績がある。その点では東芝(=傘下の米ウエスチングハウス)、三菱重工と並ぶ“原発御三家”の面目躍如だが、福島原発の大惨事を機に国内の新規受注など望むべくもない。言い換えれば、だからこそ日立は海外に活路を求めるべくシャカリキになっているのだ。