『吹割の滝』は、高さ7メートル、幅30メートルの滝。落下する水が凝灰岩や花崗岩で構成された川床を割り、派手に水しぶきが上がる様子から、『吹割の滝』という名前が付いた。
沼田市利根町にある滝は観光名所となっており、シーズンを通して多くの観光客が押し寄せている。昭和11(1936)年12月16日に天然記念物に指定され、古くから人々に愛されてきた。筆者もこの夏、猛暑を避けるために家族と訪問したのだが、岩盤の中をぬうように清水が流れ、漂う清らかな空気と圧倒的な景観の良さにほれぼれした。何時間でも見ていたい絶景とはまさにこのことである。
映像にしても”絵になる名勝”であり、先日、テレビ朝日系の『報道ステーション』で生中継され、日本中に清涼感を振りまいた。2000年のNHK大河ドラマ『葵 徳川三代』のオープニング映像にも採用された、日本でも有数の滝である。三方から豪快な水が流れ落ちるさまから『東洋のナイアガラ』とも呼ばれている。
この滝には、竜宮の椀(わん)貸し伝説が残っている。村で冠婚葬祭があった時、村人がお椀を貸してほしい旨と、必要な数を記した手紙を滝に投げ込むと、当日の朝には滝に必要な数のお椀が浮いていたという。だが、ある人物がお椀の数を勘違いし、返し忘れた。その後はいくら頼んでも、二度と貸してくれなくなったという。
これはあくまで筆者の推論にすぎないが、滝や川の淵に残る”貸し椀伝説”は山の民と関連があるのではないだろうか。どちらにしても、『吹割の滝』の流れが滞留する深い淵をのぞいていると、まるで竜宮につながっているような錯覚に陥ってしまいそうだ。
なお、夜間は近づかないほうがいい。なぜならば、同所も深夜になると『鱒飛の滝(ますとびのたき)』と同様に、心霊スポットのような不気味な場所になるからだ。
昼間に関して言えば、都会で疲れた心を洗うことができる素敵な場所だ。仕事や学業などで抱え込んだストレスや悲しみは、この滝に流してもらおう。
(山口敏太郎)