「あたし、もう赤ちゃんじゃないから」
という理由であった。
しかし、いつの間にか、机の上に戻っている。
「なぜかしら?ママが戻したの?」
「あら、ママは知りませんよ」
母親はいぶかしげに答えた。
女の子は、気味悪く思ったものの、再び人形を捨てた。
今度は隣り町のゴミ捨て場に捨てた。
これだけ離れると大丈夫だろう。
だが、再び人形は女の子の部屋に戻っていたのだ。
女の子は戦慄した。
手にした人形がやや笑ったように思えたからである。
ある時、女の子は自宅の引っ越しの日にその人形を捨てた。
こうすれば、人形が返ってくることはないだろう。
女の子はそう思ったのだ。
動き出す車の窓から女の子は、ゴミ捨て場に置かれた人形を見つめていた。
引っ越したその夜、留守番をする女の子が電話に出ると
「もしもし、私よ。なんであたしを置いていったの?これから行くわ」
女の子は不気味に思いながらも電話を置いた。
すると、間髪を入れず再び電話が鳴った。
「もしもし、私よ。今ね、あなたの町の駅よ」
女の子ははっと驚き、急いで電話を切った。
人形が返ってくる。いや誰かのいたずら?
そして、3回目の電話が鳴った。
女の子が恐る恐る電話を取ると
「もしもし、私よ。今ね、あなたの家の前よ」
女の子は恐怖でおののきながらも、玄関の扉をほんの少しだけ開けた。
誰もいない。
やっぱり誰もいない。
やはり誰かのいたずらだったのか。
女の子はママの「帰るコール」を待った。
そして、4回目の電話が鳴った。
「ママの電話かな」
女の子が受話器を取った。
「もしもし、私よ。今ね、あなたの”う・し・ろ”よ」
(山口敏太郎)