「監督というのは、1年、1年が勝負だから」というのは、星野監督の哲学だ。が、実際に中日でも阪神でも1年契約はない。複数年契約をした上で、「でも、監督の勝負は1年、1年。複数年契約は関係ない」というのが、星野流だ。3年契約の2年目の03年に阪神を18年ぶりに優勝させて勇退。04年に阪神のオーナー付きシニアディレクターに就任して、楽天監督に就任するために退任している。
異例の1年契約の楽天・星野監督に対し、地獄耳の球界OBは「これでナベツネさんの発言の本当の意味がわかった」と語る。巨人・渡辺恒雄球団会長の発言とは…。「ああいう存在(ヤンキースのキャッシュマンGM)が巨人にはいない。監督にもオーナーにも代表にも、対等に物が言える人間が必要だ。生え抜きでなくともいい。どこかにそういう人物がいるはずだ」という、ゼネラルマネージャー必要論だ。
ソフトバンク・王貞治球団会長は、監督時代から「日本の野球が一番遅れているのは、フロント。親会社から天下ってくる野球の素人では無理がある。野球を熟知したゼネラルマネージャーが必要だ」と唱えている。今季、ソフトバンクがダイエー時代の03年以来7年ぶりのリーグ優勝を達成したのも、編成委員会副委員長、事実上のGMを務めた王球団会長の存在が大きい。リーグ4連覇に失敗した巨人の渡辺球団会長が初めてGM必要論を口にしたのも、王球団会長の姿があったからだろう。
が、ソフトバンク球団会長という要職にある王氏をゼネラルマネージャーとしてヘッドハンティングするのは、いくら渡辺会長でも無理がある。「生え抜きでなくてもいい。どこかにそういう人物がいるはずだ」という渡辺発言に該当するのは、地獄耳の球界OBが指摘したように、楽天・星野監督しかいない。渡辺球団会長と星野監督の蜜月関係は、広く知られている。当時オーナーだった渡辺球団会長が阪神を18年ぶりに優勝させた星野監督を「星野監督はONの後継者だ。カリスマ監督だ」を絶賛したのが、始まりだ。「星野監督を巨人に招こうとしたが断られた」と、渡辺球団会長が明かしたように、05年のシーズン中にポスト堀内として巨人史上初の外様監督として星野監督招請を試みたが、阪神ファンの実力行使も辞さずのすさまじい反対などで実現しなかった。
だが、以後も渡辺球団会長は星野監督の熱烈な支援者で、08年の北京五輪日本代表監督就任も、渡辺球団会長の強力なプッシュがあったからだ。北京五輪で銅メダルも取れず、4位に終わっても「星野監督以上の監督がいるか」と断言して、09年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の日本代表監督に星野監督を続投させようとしている。世論の大反対で実現しなかったが、渡辺球団会長の星野氏への熱い思いは変わっていない。
「楽天・星野監督は話題になっていい。人気が出るぞ」と、楽天・星野監督にエールを送っている。その裏には、中日、阪神で正式な肩書きはなくても、事実上のゼネラルマネージャー兼任監督の手腕を発揮して優勝している星野監督に楽天でも成功して欲しい気持ちが込められているのだろう。そうすれば、誰の反対もなく、巨人史上初のゼネラルマネージャーに招請できるからだ。