大阪決戦から先立つ2カ月前、九州新幹線の全面開通に併せて、阪急百貨店が新博多駅ビルにオープンした。これを迎え撃ったのが三越伊勢丹傘下の岩田屋本店、福岡三越、博多大丸で、こちらは「阪急が地元勢に攻め込んでいる」と言われる。実はこの博多戦争、前述した大阪戦争とも、キーマンと目されているのが高島屋の鈴木弘治社長だ。
「伊勢丹に強力なライバル心を抱く鈴木社長は、阪急阪神百貨店を傘下に持つH2Oリテイリングと経営統合を模索。両社の売上高の差や出店地域の考え方の違いが埋まらず、'10年3月に断念しましたが、協力関係の含みは残していた。だから大阪では高島屋と阪急がタッグを組んで取引先が身動きできないよう骨抜きを図ったし、博多では阪急を前面に立てて三越伊勢丹に真っ向勝負を挑んだ。伊勢丹への敵対心は相当です」(高島屋関係者)
その理由は何か。関係者が続ける。
「伊勢丹の社長だった武藤信一さん(故人)と慶応の同級生で、当時からライバルだったこともあるでしょうが、三越が野垂れ死にの危機に陥っていたとき、救済候補に挙がったのが高島屋でした。ところが高島屋は東京の日本橋に店があり、三越本店と重複する。この扱いをどうするかを思案していた矢先、三越がメーンバンクを異にする伊勢丹を駆け込み寺にした。まさにトンビに油揚げの図で、高島屋がH2Oと経営統合を画策したのも、三越伊勢丹から業界ナンバーワンの座を奪取しようとの野心的発想からでした」
'09年に経営破綻した北海道最大手の丸井今井は、以前から伊勢丹と緊密な間柄だったが、高島屋は一時再建支援に名乗り出て伊勢丹を強く牽制(後に伊勢丹が再建スポンサーに決定)した。そんな因縁もある。それだけに三越伊勢丹を出し抜くべく、大丸と松坂屋を傘下に持つJ・フロントリテイリングへの急接近を図っているとの観測も根強い。
「鈴木社長が描く戦略次第では業界地図が大きく塗り変わるため、かねてから高島屋は業界再編の台風の目とされています。しかし、一挙に規模の拡大を狙えば波風が立つ。そこで、百貨店経営者ならば誰もが夢見る“銀座”進出に打って出るとの声が燻っている。それは長年、三越と銀座一番店を競っている松屋の買収です。松屋は知名度こそ高島屋などに及びませんが、それでも花の銀座の老舗デパートですから鈴木社長には立派な勲章です。その上で、まさに隣接している三越にガチンコ対決を挑めば、それだけで話題性は十分ある。そうなれば、いよいよ目が離せなくなりますよ」(流通業界紙記者)
高島屋の聖地とも言える大阪で苦戦が続く三越伊勢丹。一方、伊勢丹のホームグラウンド東京・新宿の高島屋新宿店は、慢性的な赤字からなかなか脱却できない。
増税不安からも先が見えにくい消費者動向。百貨店の生き残りをかけた決戦は避けられそうもない。