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「渋井哲也の気ままに朝帰り」 路上に名刺が落ちていた歌舞伎町の朝

 「この嬢は、どんな風に騙してくれるのだろうか」

 初めて出会うキャバクラ嬢には、いろんな期待をしてしまいます。“騙す”といっても、詐欺のことではなく、私は、「どんな非日常を演出してくれるのか」という意味に使っています。店は「舞台」であり、キャバクラ嬢は「女優」です。しかも、こちらを接客し、気持ち良くしてくれることが期待されている存在です。

 もちろん、最初から印象がよく、こちらとの関係を快適にし、さらに、話がスムーズという人はそれほど多くはありません。フリーやヘルプで接客する嬢はいろんな人を見ているわけですから、無難に接客することはあるでしょう。

 ただ、時には初めてのキャバクラでも、指名したくなるほどの嬢がいるものです。先日も、初めてのキャバクラで、初めて接客してきた嬢を指名してしまいました。好みの範囲ではありましたが、特に優れてかわいいという感じでもなく、美人でもありません。しかし、ほんの数分の中で、心地よさを感じていた私がいたのです。

 見た目は23歳くらいのA嬢(19)。キャバクラ嬢になって間もない。まだまだ荒削りで、私を癒してくれる、という感じではありませんでした。しかし、指名した理由は、荒削りの中にも、なぜか輝きがあったからです。輝きというのは、客の私との関係の中で、生き生きとしている様子がうかがえたのです。

 A嬢はギラギラして営業しているわけでもありませんでした。名刺だって、指名をしたために私にくれたので、まだまだ不慣れでした。名刺の渡し方も、ホント、素人な感じで、無造作です。そういったところも、新鮮さがあり、よかった点でもあります。そんな時でした。名刺の話題になったのです。

 名刺には源氏名のほか、自身の顔写真が印刷してありました。どうやら、その写真はプリクラのようです。そのため、顔がまったくと言っていいほど、違ったのです。なぜ、そんな名刺にしたのかというと、特に考えがあったわけではなく、データで持っているものがプリクラしかなかったから、というものです。新人ですから、名刺にお金をかけられない、とも言っていました。

 「名刺は、あなた自身の顔じゃないですか。営業で必要なんだから、たとえ、お客に捨てられたとしても、覚えてもらうためには必要なアイテムだよ。だから、お金をそれなりにかけたほうがいいよ」

 と言ってみました。すると、

 「でも、まだ新人だし、お客さんに捨てられるかもしれない名刺にそんなにお金をかけたくないですよ。それに、捨てられている名刺をたまに見るんですが、発見すると、むなしくなるんですよね」

 と言う。

 そういえば、最近、街中で捨てられているキャバクラ嬢の名刺が多い気がします。景気が回復して、キャバクラに行くサラリーマンが多くなったのでしょうか。いずれにせよ、名前だけの名刺であればあまり目立たないのですが、顔写真が入った名刺であると、見入ってしまいました。A嬢が「むなしくなる」という言葉がリアリティを感じてしまいました。

<プロフィール>
渋井哲也(しぶい てつや)フリーライター。ノンフィクション作家。栃木県生まれ。若者の生きづらさ(自殺、自傷、依存など)をテーマに取材するほか、ケータイ・ネット利用、教育、サブカルチャー、性、風俗、キャバクラなどに関心を持つ。近刊に「実録・闇サイト事件簿」(幻冬舎新書)や「解決!学校クレーム “理不尽”保護者の実態と対応実践」(河出書房新社)。他に、「明日、自殺しませんか 男女7人ネット心中」(幻冬舎文庫)、「ウェブ恋愛」(ちくま新書)、「学校裏サイト」(晋遊舎新書)など。

【記事提供】キャフー http://www.kyahoo.jp/

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