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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 絶対平和は幻想か

 日本維新の会が3月30日に党大会を開き、新しい綱領の要旨を決定した。その冒頭には次のように書かれている。「日本を孤立と軽蔑の対象におとしめ、絶対平和という非現実的な共同幻想を押し付けた元凶である占領憲法を大幅に改正し、国家、民族を真の自立に導き、国家を蘇生させる」。
 戦争放棄と軍備の保有禁止を盛り込んだ現行憲法は、現実を踏まえない幻想であり、その憲法のおかげで日本は世界から軽蔑され、孤立化しているというのだ。

 この事実認識は、私のこれまでの経験と大きく異なる。日本の憲法が軍備を放棄していることを、理想的な条文だと外国人からほめられたことは何度もあるが、非難されたことは一度もない。もちろん、世界から戦争を根絶することが一度もできていないというのは、厳然たる事実だ。しかし、憲法が描くべきことは社会の理想であって、現実ではないだろう。
 ただ、軍備をしなければ平和は守れないという考え方が一定の支持を得ているということも事実だ。維新の会はそれを新しい綱領で明確に打ち出したというだけのことだ。

 そこでの問題は、日本維新の会の支持者たちが望んだことは、本当にそうしたことなのかということだ。そもそも橋下徹大阪市長が率いる大阪維新の会が高い支持を集めたのは、大阪府や大阪市で蔓延していた役人天国を破壊し、民間の活力を復活させて豊かな暮らしを取り戻すという理念に多くの人々が共鳴したからだった。
 実際、昨年8月に日本維新の会が作った維新八策では、「憲法9条を変えるか否かの国民投票」をすると書かれているだけで、憲法改正に関してはニュートラルだった。それが、ここにきて強いメッセージを発するようになってきている。このことが意味するのは、参議院選挙後に、自民党と維新の会が手を組んで、憲法改正に一気に進んでいくだろうということだ。
 自民党は、結党以来、憲法改正を党是としている。ところが、自民党政権が長く続いてきたのに、憲法改正は行われなかった。それは、自民党の中のリベラル勢力が、改正を許さなかったからだ。それがここにきて、自民党内でもリベラル勢力が衰退していることに加えて、アベノミクスの成功によって安倍総理の権力は最高潮に達している。維新の会と安倍総理が手を組めば、憲法改正は現実のものになるだろう。

 絶対平和は幻想だというのは、現実論としては正しい認識かもしれない。300万人の人命と国富の4分の1を失った太平洋戦争の記憶が風化し、威勢のよい強硬論が若者を中心に大きな支持を得るようになっているからだ。ただ、一つだけ認識しておかなければならないのは、戦争の最大の犠牲者は、いつも若者になるという事実だ。太平洋戦争のときも、特攻隊員として国家に命を捧げた大部分は少年兵だった。
 そのことは、安倍政権が掲げる成長戦略、すなわち規制緩和を中心とする市場原理化政策と見事に符合している。解雇規制の緩和などの労働市場流動化策で、真っ先に切り捨てられるのは若者たちだからだ。実際、市場原理化の進んだアメリカや韓国の若年失業は、日本より深刻になっている。傷つくのは権力者に煽動された弱者ばかりなのだ。

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