薪を持ち帰った村人の中に、利兵衛という者がいた。利兵衛は薪で風呂を沸かしていると、急にケタケタと笑い出し、風呂の戸を何度も叩き続けた。また佐助という者は、勝手場で薪に火を付けると、何の前触れもなく、手にした鉈を振り回し始めた。家の者は暴れまわる佐助を恐れて、誰も近づこうとしなかった。やがて、暴れ疲れた佐助は鉈を自分の首にあて、自殺してしまった。
連夜斎は利兵衛や佐助のことを聞いて大変驚いた。何故、二人がそのようなことになったのか原因が解らなかったからだ。昨日切り開いた竹薮に何かあると、連夜斎はそこを調べてみた。竹薮の中には小さな二基の石塔が建っていた。それは、小林城の城主・牧長清とその奥方の墓であった。連夜斎は二人の墓を新しく建立し、丁寧に弔った。
それから、村で奇妙なことは起こらなくなった。しかしその後も連夜斎の屋敷には、しばしば幽霊が姿を見せていたという。裃をつけた礼装の姿をした武士の幽霊で、夜中になると現れた。連夜斎は幽霊を恐れることなく、まったく相手にしなかった。ただ幽霊が現れた翌朝には、牧長清の墓の前で長い間手を合わせるのが日課となったという。連夜斎の屋敷跡は、現在では矢場地蔵で有名な清浄寺となっている。
(写真:「清浄寺」愛知県名古屋市中区大須)
(「三州(さんず)の河の住人」皆月斜 山口敏太郎事務所)
参照 山口敏太郎公式ブログ「妖怪王」
http://blog.goo.ne.jp/youkaiou