澤村がフリー打撃に初登板したのは、2月6日。そのストレートの威力が改めて証明されたわけだが、巨人フロントは2通りの反応を見せていたという。「即戦力の呼び声通りだ」とご満悦の表情を浮かべる者、そして、「当然だ」と思ったのか、リアクションを全く見せなかった者も少なくなかったそうだ。
巨人は昨年8月の段階で澤村指名を“内定”させていたようである。清武英利・球団代表が「澤村指名」を表明したのは10月20日だが、8月にヤンキースの幹部、デーモン・オッペンハイマー氏(スカウティングを担当)が来日した際、巨人側は「即戦力投手の宝庫」とも称された同年のドラフト候補について、相談を持ち掛けていたという。
「ヤンキースは何人かのスカウト担当者を来日させました。来日の目的? ダルビッシュの視察だと聞いていましたが…。その足で業務提携を結ぶ巨人関係者とも会合の場を設けています」(球界関係者)
その際、ヤンキース側も澤村や斎藤佑樹(日本ハム)、大石達也(埼玉西武)たちの評判を知っていたらしく、多岐に渡ったアドバイスを与えたという。そのうちの1つが「本当に欲しいのなら、たとえ競合となっても澤村で行くべし」だった。
斎藤佑樹を回避したことが正しかったのか否かは、2011年シーズンだけで判断できない。ただ、「ヤンキースにアドバイスをもらった」経緯を聞かされると、気掛かりな話もないわけではない。ドラフト会議直前、澤村も巨人志望であることを打ち明けた。確か、「巨人以外に指名されたら、メジャーに行く」なる発言もしていたはず。また今となっては不可解な限りだが、ドラフト会議直前、ヤンキースは澤村の身分照会を行った。この一報が流れたのは、ドラフト会議2日前の10月26日。偶然かもしれないが、ヤンキースからの身分照会を知って、「メジャー挑戦のルートは出来た」と判断し、澤村の指名から降りた球団もないわけではない。当時も「澤村一本釣りは出来過ぎ」と疑念の目を向ける報道もあったが、巨人、ヤンキース両球団の8月会合が判明した今、かなり突っ込んだ意見交換がされていたのではないかと、勘繰ってしまう…。
しかし、澤村は自身にいちばん適した球団に入団できたのではないだろうか。
まず、昨季の投手陣崩壊で働き場所があること。育成枠出身選手の成功により、巨人は若手育成やファーム組織の拡充にも力を注いでいる。原監督もイキのいい若手には積極的にチャンスを与えてきた。一昔前、コーチが必要以上に投球フォームなどの技術指導をしたがるといった話もあったが、今は全くない。
澤村が高校時代まで無名だったのは繰り返すまでもないが、現巨人選手は育成枠の拡充により、練習熱心なタイプが多くなった。澤村がチームにすぐに打ち解けられたのも、そういった背景が影響しているはずだ。
坂本のバットをヘシ負った後、澤村は「もっとキレとスピードを」と“反省”を口にしていた。結果に満足せず、次の課題へと頭を切り換えていた。この前向きな姿勢…。巨人フロントが澤村の活躍を信じて疑わないのは、やはり当然か。