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ANAとの“政略結婚”を強いられたスカイマークの乱気流

 直近の決算書で監査法人から「事業継続に重要な疑義がある」と“イエローカード”を突き付けられた国内航空3位のスカイマークが正念場を迎えている。窮余の生き残り策として昨年暮れには日本航空(JAL)と提携し、同社との共同運航を目指していた。ところが新年に入るとこれを反故にし、全日本空輸(ANA)グループの傘下に入る可能性が囁かれたのだ。そんな事態になれば、創業以来掲げてきた同社の“独立経営”が崩壊する。

 事の経緯を駆け足で説明すると、スカイマークの蹉跌は世界最大の旅客機『A380』をキャンセルしたのを機に昨年7月、仏エアバス社から700億円超に及ぶ違約金の支払いを請求されたことに始まる。格安航空会社(LCC)などとの競争で今年3月期に136億円の最終赤字を見込む同社には、到底支払える額ではない。そこで西久保愼一社長はJALとの二人三脚による事業拡大に活路を求めた。公的支援で再生したJALは2016年度まで新規投資を規制されており、スカイマークへの出資は不可能である。従って乗っ取られる心配はなく、関係者は「その安心感が策士で知られる西久保社長を突き動かした。JALがエアバスから航空機を大量に調達することも、違約金の減額交渉に際して強力な後ろ盾になると読んだようだ」と明かす。

 そのJALを差し置き、なぜ強力なライバル関係にあるANAが急浮上したのか。航空業界に精通した証券アナリストは「政治のゴリ押し」と斬って捨てる。JAL再生は民主党政権下の数少ない“勲章”である。政権を奪回した自民党の運輸族がJALとスカイマークによる共同運航の利敵行為を容認するわけがない、というのだ。
 実際、JALへの急接近が明らかになるや、民間の交渉にもかかわらず太田昭宏国土交通大臣が難色を示したのは「ANA応援団の自民党運輸族への配慮に他ならない」とアナリストは打ち明ける。
 そんな矢先、実にタイミング良くANAにフォローの風が吹いた。航空会社の安全性を検証しているドイツの調査機関が発表した2015年版の『航空会社安全性ランキング』で、ANAが日本企業ではトップの11位にランクされたのだ(昨年は12位)。速報段階での公表がトップ12社のみなのでJALのランクは明らかではないが、昨年版では46位だった。ランキングの根拠は明示されていないものの、自民党運輸族は含み笑いをかみ殺すのに懸命だろう。

 ではANAから出資を仰いだ場合、スカイマークはどんな命運をたどるのか。他の航空会社に株式の20%超を握られた場合、羽田空港の発着枠(1日36枠)の返上を迫られるため、ANAの出資比率は20%以下にとどまるのは確実だ。株主総会で重要事項に拒否権を行使できる3分の1には及ばないところがミソともいえる。
 何せ西久保社長自身、発行済み株式の30.5%を保有する筆頭株主である。保有比率が少々低下したところでワンマンとしての影響力が急速に低下するとは思えない。だからこそ、スカイマークはこのタイミングに合わせて投資ファンドなどを対象に発行済み株式の約25%に相当する第三者割当増資を行うほか、銀行融資を取り付けて体力強化を図る。

 このシナリオが動き出した際、西久保社長は「究極の落としどころを探っていた」と情報筋は指摘する。
 旧運輸省が打ち出した規制緩和政策の下、新規航空会社が次々と誕生した。ところがエア・ドゥ、スカイネットアジア航空、スターフライヤーとスカイマークを除く3社が経営難からそろいもそろってANA傘下に組み込まれた。だからこそANAがスカイマークへの出資を機に自らの排除を画策すれば「規制緩和に逆行し、ANAの乗っ取りを世間にアピールできる」との見立てであった。

 西久保社長といえば「客の苦情は一切受け付けない」と宣言するなど、航空業界の異端児として知られた存在。その御仁が、いくら国土交通省の顔を立てる必要に迫られたとはいえ簡単にANAの軍門に下るわけがない。むろん、ANAとて西久保社長の強烈な個性は承知している。航空関係者は冷ややかだ。
 「国交省から“政略結婚”を要請された時点で、ANAは用意周到に彼の排除シナリオを練ったに決まっている。最大のポイントは無謀なエアバス調達を決断し、会社をどん底に追い込んだ経営責任をどう問うか。出資と引き換えに詰め腹を切らせればベスト。金を出す以上、それぐらいの条件を突き付けるのは当然です」

 そのことを察知したからだろうか、1月14日、スカイマークは自主再建を目指す方針を固めた。とはいえ乱気流から抜け出せたわけではなく、“3位”をめぐる攻防戦はこれからが本番だ。

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