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踊る小人たち 〜山口敏太郎本人の実話怪談〜

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画像はイメージです。

 筆者の祖母が亡くなってから、もう十五年以上の歳月が流れた。祖母は昔ながらの豊富な知恵と豪快な性格を併せ持つ女性であった。そんな祖母も最晩年は痴呆がひどくなった。あるときなど、古時計から小人が降りてくると言い出した。

 「どないした ばあちゃん? 」
 「毎回毎回、時計がなる度に小人がいっぱい降りてきて輪になって踊るんよ。たまらんわ」

 祖母はヒステリックになりながら、筆者に訴えたことがあった。だが、筆者には小人の姿は見えない。

 「ええ? 小人なんかおらんよ、ばあちゃん」
 「そこにおるやん、そこに、ほら、そこに」

 祖母は誰もいない居間を指差した。

 「どこにおるの?」
 「ほら、気味の悪い小人の輪っかが、見えるやろ」

 彼女の目には、小人たちが輪になって踊っていたのであろうか。祖母のこの奇妙な行動を見たとき、筆者は複雑な気持ちになった。かつて、まったく妖怪や魔物を恐れなかった祖母。

 その祖母が、小さな小人たちの”見えないダンス”におびえているのである。

 「小人の踊りが怖い! 小人の踊りが怖い!」

 祖母は絶叫した。

 「ばあちゃん、大丈夫か」

 筆者は衝撃の展開に色をなくした。異界から生まれ出た人間は、いつか魔物に擦り寄られ、異界に帰っていくのだろうか。祖母の脳裏では、間違いなく小人が輪になって踊っているのであろう。永遠に続く“見えないダンス”とは、いったい何なのだろうか。

 ここで筆者は、ある質問をした。

 「どこが怖いの? 小人が踊ってるだけやろ?」

 祖母は、虚ろな瞳を輝かせている。

 「小人が呼びかけるんよ」
 「呼びかけるって、どういうふうに」

 この質問に、祖母は語尾を震わせて答えた。

 「この輪の中に入れ、輪の中に入れって、小人が話しかけるんよ」

 私は驚きのあまり、しばし言葉を失った…。
 気を取り直してこう聞いた。

 「輪の中に入れとは、どういうことなの? ばあちゃん」

 すると祖母は、ひと呼吸おいてこう言った。

 「あの輪を抜けると、抜けると…」
 「抜けるどうなるの?」

 すると祖母は恐ろしく低い声でつぶやいた。

 「あの世の世界なんよ」

 この言葉を聞いて、筆者は固まった。

 働きづめの祖母の心の隙間に、小人や魔物が棲みついたのだろうか。筆者は、丸くなって小人のダンスに震える祖母の姿を見て、悲しい気分になった。

 祖母が死去したのは、それからちょうど一年後のことであった。やはり、祖母は小人の輪をくぐってしまったのだろうか。

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