歌舞伎役者は代々の人間が同じ名前を名乗る名跡制度が存在し、幼少期から出世魚のように名前を変える。現在の市川海老蔵も七代目市川新之助、十一代目市川海老蔵を経て、十三代目市川團十郎となる。先代の市川團十郎は2013年に亡くなった海老蔵の実父、先々代は1965年に亡くなった祖父である。これを見ればわかるように、歌舞伎役者の名跡は血縁者によって受け継げられているとわかる。そこで気になるのは、一般人は歌舞伎役者になれないのだろうかという疑問だろう。
基本的には、名跡を継ぐ歌舞伎役者になるには、歌舞伎役者の家に男子として生まれるしかない。女性は歌舞伎役者にはなれない。七代目尾上菊五郎の長女である女優の寺島しのぶが「男に生まれていたら歌舞伎役者になりたかった」としみじみと語っているのは象徴的だ。
名跡に跡取りとなる男子がいない場合は、養子を取ることもあるが、こちらも誰でも良いわけではない。ある程度の家柄にある者や、幼少期から歌舞伎役者に弟子入りしその実力を認められた者でなければならない。五代目坂東玉三郎などは外部の家から養子に入った歌舞伎役者として知られる。
最近では、お笑い芸人の養成所を各事務所が開設しているが、歌舞伎にも学校が存在する。国立劇場を運営する日本芸術文化振興会が、歌舞伎、文楽、能楽などの伝統芸能を保存育成するための研修生を定期的に募集している。歌舞伎役者の場合、条件は中学卒業以上の男子で、23歳以下の男子が応募できる。修了生は各種の舞台で活躍しているが、あくまでもメインは名跡出身の歌舞伎役者となるのが現状である。そうなると、やはり歌舞伎役者となるには、名跡の家に男児として生まれるほかないのかもしれない。