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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第107回 「再」デフレ化する日本

 デフレーションの「真因」は、国民経済の供給能力に対し、総需要という「名目GDP」が不足することである。
 名目GDPは、国民の付加価値の「生産」の合計でもある。すなわち、名目GDPとは生産者である国民の「仕事の総額」なのだ。
 仕事の総額に対し、供給能力が「過大」になると、内閣府の言う需給ギャップのマイナス、正しくは「デフレギャップ」が拡大したことになる。生産者がモノやサービスを供給する力に対し、十分な仕事が存在しないということになり、物価の下落と所得の縮小の悪循環が始まる。

 12月16日、内閣府は'14年7〜9月期の需給ギャップのマイナス(=デフレギャップ)が、対GDP比で2.8%に拡大したと発表した。
 需給ギャップ▲2.8%が1年間継続すると、我が国はおよそ14兆円の需要が足りない、すなわち名目GDPが不足する状況になる。
 名目GDPという「仕事の総額」が不足すると、民間企業は設備投資を減らす。仕事不足に悩まされている企業が、設備投資を拡大するなどということはあり得ない。
 また、仕事が不足すれば、賃金は伸び悩む。特に、安倍晋三政権が金融政策の拡大を継続しているため、輸入物価の高止まりは続く(原油は除くが)。
 輸入物価上昇で消費者物価が高止まりする中、賃金が伸び悩む。当たり前の話として、我が国の「実質賃金」は低下傾向を継続するだろう。
 そして、これまた当たり前の話だが、実質賃金が低下していく環境下において、国民が消費を増やすなどということはあり得ない。何しろ、実質賃金低下とは「貧困化」なのだ。
 貧困化している消費者は、消費を拡大することができない。

 実は、内閣府が公表する「需給ギャップ」の定義は、本来の「需給ギャップ」よりも甘めに出る(デフレギャップが小さくなる)。
 需給ギャップとは、元々は、
 「日本の生産者が全て雇用された完全雇用状態で、全ての生産要素(工場、設備など)を投入した時に実現可能なGDP」
 という定義に基づく供給能力(最大概念の潜在GDPと呼ぶ)と総需要(名目GDP)を比較し、両者の乖離を弾き出したものである。
 最大概念の潜在GDPで需給ギャップを測ると、「需給ギャップのプラス」ということは起こり得ない。定義上、総需要が供給能力の「上限」になってしまうのである。「供給能力を超える総需要」というものは存在しえないのだ。

 それに対し、内閣府が定義する供給能力は、
 「経済の過去のトレンド(傾向)から見て平均的な水準で生産要素を投入した時に実現可能なGDP」
 となっている。
 すなわち、過去の失業率や工場の稼働率等の平均を計算し、「長期トレンド」の供給能力(平均概念の潜在GDPと呼ぶ)と総需要を比較し、需給ギャップを弾き出すのだ。
 とにかく、「最大の供給能力」ではなく「平均の供給能力」であるため、需給ギャップは現実よりも必ず小さくなる。
 それどころか、総需要が供給能力を上回った際のインフレギャップまで、実数値で計算できてしまうのだ(つまり、供給されないモノやサービスが購入される、という妙な話になってしまうのである)。

 2007年から翌年夏(リーマンショック前)にかけ、我が国の需給ギャップはプラス化していた。すなわち、インフレギャップ状態だったわけである。
 内閣府の「平均概念の潜在GDP」で計算されたデフレギャップは、「最大概念の潜在GDP」からはじき出された値よりも小さくなる(最大概念の潜在GDPの場合、そもそも需給ギャップのプラス化があり得ない)。
 言いかえれば、内閣府発表の'14年7〜9月期のデフレギャップ2.8%、金額にして年換算14兆円の総需要不足にしても、「現実の数字」よりは小さい可能性が濃厚なのである。
 最大概念の潜在GDPで計算した場合、我が国の総需要不足は20兆円を上回っていることが確実だ。
 総需要の不足を「誰か」が埋めない限り、日本のデフレーションは終わらない。
 そして、総需要が不足している環境下において、民間企業や家計が率先して投資や消費を増やすことはない。
 結局、デフレギャップを「主体的」に埋めることが可能な存在は、政府しかないのだ。

 政府が「日本銀行の国債買取(=通貨発行)」により財源を確保し、国内で生産者の「仕事の総量」が増える形でお金を使う。これこそが、デフレ対策の王道である。
 2012年末に「デフレ脱却」を標榜して誕生した安倍政権であるが、一応、2013年度は補正予算10兆円強を執行し、政府主導の需要創出が図られた。結果的に、2014年1〜3月期には、需給ギャップは▲0.2にまで縮小したのである。
 その段階で、安倍政権は消費税増税という強烈な「総需要縮小策」を強行した。
 さらに、安倍政権は2014年度の補正予算について、'13年の10兆円強から5兆円強に縮小してしまったのだ。

 消費税率8%への引き上げにより、日本国民は8兆円の所得を奪われた。さらに、補正予算の減額により、政府支出という需要が5兆円減少した。
 言わば、2014年の日本は「政府の政策」により、13兆円の需要(=所得)を喪失してしまったわけである。
 奇しくも、内閣府が計算する(小さめの)デフレギャップの額、年換算14兆円とほぼ同じ規模だ。
 デフレギャップが拡大している以上、政府の大規模な財政出動(最低でも10兆円規模)なしでは、2015年の日本経済が「再デフレ化」するのは確実である。

三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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