11月5日に発表した9月中間決算は円安を背景に大幅な増収増益だった。これを踏まえて来年3月期の見通しを売上高26兆5000億円(従来予想25兆7000億円)、本業の儲けを示す営業利益を2兆5000億円(同2兆3000億円)、純利益を2兆円(同1兆7800億円)に上方修正している。2兆円の最終利益を確保すること自体、日本の上場企業では史上初の快挙である。
この“ウハウハ決算”に記者会見した小平信因副社長は円安効果を強調されるのは心外とばかり「為替もあるが、営業努力や原価の改善努力などの要因が重なった」と胸を張った。
同社は対ドルで1円の円安が営業利益を約400億円押し上げる。リーマンショック直前の2008年3月期(純利益1兆7178億円)に比べると、想定為替レートは約10円の円高。それにもかかわらず純利益2兆円の大台に達するのは収益改善効果が大きい、とアピールしたかったのだ。
ところが、わが世の春を謳歌するトヨタに対し、市場からは冷や水を浴びせる声が漏れてくる。「こんなにもうかっているのだから配当を増やすべき」「自社株買いで株主に報いるべき」などは、まだ序の口。逆にトヨタの前途を危ぶむ“死角”さえ囁かれている。
その第1は4月の消費増税を機に国内販売が落ち込んでいることだ。販売のブレーキは何もトヨタだけとは限らないが、9月中間期では前年同期比で7万1000台減少(ダイハツ工業、日野自動車を含む)。そのため当初は221万台としていた今年度の販売計画を219万台に修正する始末。
「トヨタを含め、各社は駆け込み反動を見込んで販売目標を下げていたが、現実には9月中間期時点で軒並み計画に届いていない。しかも公表されている数字にしても、増税前に受注し、4月以降に登録した車が数字を押し上げた側面もある。これで販売不振が長期化しようものならば、トヨタといえどもボディーブローが効いてきます」(ディーラー関係者)
第2点は下請けメーカーとの微妙な関係だ。好業績を背景にトヨタは取引先に対し、これまで年に2回行ってきた部品の値下げ要請を見送った。これを“美談”とたたえる向きもいるが、部品メーカーの役員OBは手厳しい。
「急激な円高が進んだとき、トヨタはサプライヤー企業に対し“定例”とは別に『円高協力金』名目で価格引き下げを呑ませた。ところが経済産業省はこれを優越的地位の乱用に当たるとしてガイドラインで釘を刺した。今回は円安の恩恵を受けたから下請け泣かせをやめたものの、これで再び円高になったら協力するかしないか、踏み絵を迫りかねません」
その場合“違法”を指摘する経産省との壮絶な綱引きが見ものになってくる。
第3は豊田章男社長が声高に唱える『TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)』が同社にとって両刃の剣になりかねないことだ。これは部品とプラットホーム(車台)の共通化を進めれば複数の魅力ある新車を投入できる上、生産コストが飛躍的に下がる「画期的アイデア」とされ、フォードやGM、フォルクスワーゲンなどが積極的に取り入れてきた。
とはいえ、金太郎飴のような車を粗製乱造すればユーザーから見放される。フォード、GMの破綻が典型例だ。トヨタ関係者が「御曹司が暴走すれば、誰も止められない」と危ぶむのも無理はない。
第4が車の生命線である安全性への懸念だ。国土交通省は10月末、自動ブレーキなど自動車事故を防ぐ装置の性能を評価する『予防安全性能アセスメント』の結果を発表した。これは同省傘下の独立行政法人『自動車事故対策機構』(NASVA)が行ってきた安全性能評価『自動車アセスメント』(JNCAP)の強化策として今年の4月からスタートした制度。国内の8メーカーが申請した26車種をテストした結果、満点を獲得したのはレクサスLS(トヨタ)、スカイライン(日産)、レヴォーグ(富士重工)の3車種だけ。トヨタが誇るアクア、プリウスなどの人気車種は申請の対象にもならなかった。
その理由は両車種ともブレーキ機能を搭載していないためで、ネット上では「なぜ装備しないのか」との不満が飛び交っている。
「1995年から始まったJNCAP自体、まだ評価のカバー率が低く、知名度も低い。予防安全アセスメントに至ってはなおさらですが、もし大事故を起こせばトヨタは再びリコール騒動の悪夢に陥る。それを承知でアクアやプリウスに自動ブレーキを装備しなかったのならば、もう自業自得です」(トヨタ関係者)
トヨタが抱えた“時限爆弾”は、不気味なカウントダウンを始めている。