駄作と呼ばれる作品が、ゲームファンの間ではいわゆるクソゲーと呼ばれているのはご承知のとおり。だが、ひと口にクソゲーと言ってもその性質は様々だ。タイトル画面を見るだけで、あるいはそのBGMを耳にするだけ吐き気をもよおすタイプのゲームもあれば、わりと面白いのに、一部ちょっとアレな部分があって、その評価がひとり歩きした結果、のちにクソゲー(あるいはバカゲー)と呼ばれるようになったゲームも。
今回紹介する『忍者COPサイゾウ』は、後者に属する作品である。その名の通り忍者が活躍するゲームで、ジャンルはアクション。Aボタンを押すとジャンプ、十字キーと組み合わせることで、ハイジャンプ、高所からの飛び降り、前方宙返り、バク転ができる。一方、Bボタンは攻撃用に割り当てられており、敵が遠くにいる場合は手裏剣を、近接戦闘時はクナイを使用することができる。また、Bボタンを押しっぱなしでパワーを溜め、離すことで忍術を使用可能と、なかなか本格的な忍者活劇なのである。忍術はステージクリアで増えていき、また、シューティングを彷彿させるステージもあるなど、なかなかの凝りようだった。
このゲームが発売された当時、筆者はまだ少年だったこともあり、サイゾウのアクションに魅せられた。純粋に“面白いゲーム”として、クリアしたあともなお、繰り返し遊んだものだ。友人たちも同様の感想を述べていたから、当時のゲーム少年たちにはなかなか評判が良かったのだろう。
そんな無邪気な少年時代はすぐに終わりを告げ、いつしか大人になった。ある日自室の整理をしていたら、ファミコン本体と大量のカセットが見つかったことがある。懐かしさもあって、しばらくそれらのゲームを序盤だけプレイしていたのだが、この時はじつに色んな発見があった。その中で一番衝撃を受けたのが、忍者COPサイゾウである。
このゲームは事あるごとに会話シーンが挿入されるのだが、その内容が恐ろしいほどにぶっ飛んでいたことに、大人になって初めて気がついたのである。ゲームは、ニューウヨーク市警(原作表記に準拠)のジョン警視が、最近頻発している子供誘拐事件の解決をサイゾウに依頼するシーンから始まるのだが、年齢・国籍不詳の特殊工作員サイゾウへの依頼方法はなんと直電。たとえばゴルゴ13のように、ラジオ曲に特定のBGMをリクエストするなどの工作は一切行わない、身バレ・漏洩上等の直球勝負である。しかもサイゾウは「ハイ コガクレサイゾウデスガ」とハッキリ自分の名を名乗る。律儀なのか、それともうっかり者なのか。
ちなみにこの電話では、サイゾウの息子が悪の組織ジャウズに誘拐されたことも告げられるのだが、何故それが分かったかといえば、現場に「ダレカタスケテ…ハンニンハ スラムチクニ イル…サスケ」という手紙が落ちていたから。たしかにニューウヨークで自分の息子にサスケと名付ける親はサイゾウくらいのものだろうが…。この情報をそのまま信じるジョン警視とサイゾウ。それでいいのか、ニューウヨーク市警。ところでパッケージの裏にはサイゾウについて、「孤独を感じたことはない。なぜなら、彼はいつも孤独の中にしかいなかったから」と書かれているのだが、ジョン警視とのフレンドリーな会話や、子供がいることを考えると、とてもそうは思えない。のっけからツッコミどころ満載なのだ。
また、ステージ中は囚われた子供たちを助け出すことで情報を聞き出すことができるのだが、この会話がとにかく面白い。ある時、助け出した子供がひと言も喋らず、サイゾウが「よほど恐い思いをしたのだろう」と心配した直後、「…ナンチャッテ ジョウダンダヨ オジサン ワリイナ トジコメラレテ イタカラ タイクツニナッテ」と、サイゾウをおちょくる。しかもオジサン呼ばわり。他の子供との会話も終始こんな感じである。しかも助けた子供の多くが何らかの情報を持っており、お礼にそれを教えてくれるという妙な設定。ステージが進むと、サイゾウ自ら「何か情報はないのか?」と聞き出す始末である。
その他、ステージ間ではジャウズのボスとその子分の会話を聞くことができ、これが次のステージのヒントになっている。その一例として、サイゾウ抹殺のために日本から忍者部隊を呼び寄せたが、まんまと返り討ちにあってしまった後の会話をお届けしたい。
ボス「ニンポウハ ツウジナカッタノカ」
コブン「ハイ ソレガ サイゾウモ ニンポウヲ ツカウンデス」
ボス「ナニ!! サイゾウモ ニンジャナノカ」
コブン「タブン ソウデス」
ボス「ヤトッタニンジャガ ヨワスギタノカナ…」
コブン「ボス ギャラヲ オサエタデショウ…」
サイゾウが忍者ということも知らず、挙句に安いギャラで日本から忍者を呼び寄せたボス。このように、ボスと部下のまぬけな会話がステージ間に挟まれるものだから、先の展開が知りたくてどんどんゲームを進めてしまうのだが、注意しなければならないのは、ゲームオーバー時。コンティニュー可能なゲームにも関わらず、デフォルトでENDに矢印が置かれているので、うっかりボタンを連打してしまうと最初からやり直しという罠が仕掛けられているのだ。
発売当時は全く注目されることのなかったゲームだが、のちにレトロゲーマニアの間で話題となり、今では有名なバカゲーの1つとして多くの人々から愛される作品となった忍者COPサイゾウ。本作のように、埋もれてしまった“迷作”は数多く存在する。レトロなバカゲーで初笑いというのもまた一興ではないだろうか。
(内田@ゲイム脳==隔週日曜日に掲載)
■DATA
発売日…1989年
メーカー…九娯貿易
ハード…ファミコン
ジャンル…ACT
(C) 1989 KYUGO TRD.CO.,LTD.