実際、客席下にタバコを落とした男性がいたことと、その男性は火を消そうとしていたものの、やがて客席下にたまっていたゴミへ引火し、燃え広がっていった様子については目撃証言があり、さらに火元の位置とも一致していた。そのため、出火に至る経緯については疑問なしとされたのだ。ところが、肝心の「タバコを吸っていた男性」についてははっきりせず、警察発表の前後に「タバコを落としたのは初老の男性」なる情報が外電で流れた上、地元でも「タバコを落とした男は地元のファンではなく、死傷者にも含まれていないし、火災の後で見かけた人もいない」など、ミステリアスな噂が流れたのである。
しかし、謎はまもなく解けた。火災当時、客席にいた人々へのインタビューがメディアに流れ、火災原因となったタバコは「オーストラリアから来た子連れの男性」が吸っていたとの証言が公開された。結局、特に不審な事実は存在せず、やはり不幸な失火であったとの認識は揺るがなかった。
ただ、問題のオーストラリア人については氏名や顔写真などの個人情報は全く公表されず、そもそも警察がその人物を特定しているのかどうかすら明らかにされなかった。またもうひとつの噂、犠牲者に「最終戦は見に行かない方がいい、スタジアムには行かない方がいい」と忠告した人物がいたという話については、単なる根も葉もない噂として放置されたのである。
しかし、近年になって衝撃的な告発がなされた。火災によって家族を失った作家のマーティン・フレッチャー氏(テレビリポーターとは別人)が、著書で火災は保険金目当ての放火によると指摘し、スタジアムとそこを本拠地としていたサッカークラブのオーナーであるスタッフォード・ヘジンバザム氏が黒幕と断じたのである。その有力な状況証拠として、ヘジンバザム氏がサッカークラブを買収するための資産を形成する過程で何回も失火にみまわれ、その度に保険金を得ていたことを明らかにしている。つまり、スタジアムのオーナーは焼け太りで財を成していたというのだ。
(続く)