一方、欧米では産後は長く入院できず、すぐに自宅に帰される場合が多い。例えば、真面目で几帳面な国民性が日本と似ていると言われるドイツでは、入院は3日ほどであるのが普通のようだ。しかも多くの人が安心して退院できるという。それはなぜなのだろうか。
ドイツで、産後3日で退院しても安心して過ごせる理由は、「へバメ」(Hebamme)の存在が大きいだろう。ヘバメとは産後のケアをしてくれる助産師のことで、退院翌日から自宅に訪問し、赤ちゃんと母親のケアなど、子育てに関するありとあらゆることを教えてくれる。出産直後は、ミルクのあげ方や授乳の仕方、抱っこの仕方や洋服の着替えさせ方まで事細かに説明してくれ、産後3週間ほどたつとお風呂の入れ方など赤ちゃんの成長に沿ったサポートをしてくれるのだ。
「家にあるクッションを使って母親が楽な姿勢で授乳できる方法を教えてくれました。家にあるものを使って工夫してくれるので、ヘバメが帰った後も一人でできて助かりました」(ドイツ在住日本人)
人によるが、ヘバメはたいてい退院後、最初の1週間は毎日訪問してくれ、2週間目から赤ちゃんと親の様子を見ながら、2日に1度、3日に1度という訪問頻度になる。費用は全て保険でカバーされる。ヘバメは出産前に友人の紹介やインターネットの紹介サイトを通じて連絡を取り、自身で見つける。
「ヘバメの訪問頻度は保険の種類によっても違いますが、私のところには、9カ月までで最大36回来てくれました。8週間以内に36回までという人もいましたが、2カ月経てばある程度慣れてくるので十分です。電話番号やメールアドレスを教えてくれ、『困ったらいつでも連絡して』と言ってくれるヘバメも少なくないようです」(前出・同)
ヘバメが行う母親へのケアとしては、自分でできる母乳マッサージの方法や子宮が完全に元の状態に戻ったかどうかのチェックなどがある。何より、母親にとってヘバメの存在を最もありがたく感じるのは、心のよりどころになる点だ。産後はホルモンバランスが崩れ、心が不安定な状態が続くが、ヘバメは悩み事を聞き出し、共感したりアドバイスをくれたりする。“毎日ただ来てくれる”ということで救われたという人も多いようだ。
「産後はうつのような状態になり、産んだことを後悔しそうだったけど、毎日ヘバメが来てくれたことでなんとか前向きになれました。ヘバメが来てくれることで虐待も防げているように思います」(前出・同)
ただし、ドイツでは、最近の出生数の増加に伴い、ヘバメが見つかりにくい状況にある。保険に加入していない人や、あえてヘバメを頼まないという人もいるが、ほんのわずかで、ほとんどの人がヘバメにケアをお願いする。そのため、ベルリンやミュンヘンなど大都市では近年“ヘバメ不足”が問題になっているようだ。ヘバメが常駐するセンターを作り、ヘバメが家庭を訪問するのではなく、ヘバメのもとに親が赤ちゃんとともに訪問するというスタイルをとるなど、州ごとに対策を始めているが、十分ではない。
産後、ヘバメが見つかるかどうかが今後は問題になってきそうだが、ドイツではヘバメが見つかる限りは、産後すぐに帰宅させられても安心して過ごせるようだ。