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キャバ嬢がキレる瞬間(3)〜ナンパとスカウト〜

 わたしの見た目はキャバ嬢とは思われにくいので、ナンパもスカウトも普段のラフな格好ではほとんどない。出勤時もどうせお店で着替えて綺麗にするからこんな感じ。

 しかし今日は同伴。いつもの姿でお客様と同伴は失礼すぎる。やはり最低限のマナーというか、キャバ嬢としてどうなの? って思ったので、家からキャバ嬢姿で出勤することに。山手線に乗り換えるためホームへの階段を上ろうとしたその時。

 いきなり後ろから腕をつかまれて、振り返ると腰パンのちゃらい男がにやにやしながら、「どこいくの? 暇なら遊ばない?」と、すっかすかのナンパの常套句を浴びせてきた。

 手を振り払って、間に合ってますといって先を行こうとしたら再びチャラ男に捕まる。

 「あんだよぉ? 誘ってんだからついてこいよぉ??」

 なんて身勝手な…。いや、これは脅迫でしょ。さすがに身の危険を感じる。中学生の時に応援団をやってたので自在にでかい声を出せるわたしは、それを今活用することに。

 「嫌だって言ってるでしょ!」と一喝したら、一瞬で顔面蒼白に。

 周りを行く人たちも皆一斉に振り返ったけど、気にしている場合じゃない。わたしはチャラ男をあとにして、急いで階段を上った。

 電車に乗れて一息ついていたのもつかの間、変な視線を感じてたので辺りを見渡すと、やはり怪しい感じの男が蛇みたいなねちこい眼でこっちを見ていた。頼むから関らないでちょうだいね、という願いも空しく、蛇男は他の客をかき分けてわたしのところにやってきた。

 「よう、これから出勤か? あんたの通うとこよりいい店紹介してやるよ」

 え、わたしお勤め前提で話かけられてる?

 「間に合ってます」この台詞が精いっぱい。

 しかも電車だから次の駅に着くまで逃げられない感じ。

 それでも男は「どこで働いてるんだ、キャバか、風呂屋か」と詰め寄りながらでかい声で聞くので余計に恥ずかしい。

 その時ちょうど次の駅についたので、ドアが開いた瞬間走って逃げたんだけど、そいつ追っかけてくるの。怖すぎ!

 わたしはしばらく電車沿いに走り、ドアが閉まるタイミングで再び飛び乗った。蛇男はドアの向こうで何やら悔しそうな叫び声をあげていたんだけど、なんでわたしこんな思いをしないといけないの? 腹立たしいったらない。

 しかも、一日で二件もこんなことがあるなんて、おそるべしキャバ嬢ルック。

 それ以来わたしは同伴でもラフな格好をして家を出ることにした。

 お客さんにこの話をしたら、無事が何よりだから目立たない格好でこれからはおいで、だって。それがせめてもの救い。

文・二ノ宮さな…OL、キャバクラ嬢を経てライターに。広報誌からBL同人誌など幅広いジャンルを手がける。風水、タロット、ダウジングのプロフェッショナルでもある。ツイッターは@llsanachanll

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