「接客中に泥酔してしまったお客さんには結構苦労しました。服を脱いで抱きついてきたり、ドレスに嘔吐されたりと…。それと不満だったのが私の働いている店はとにかくボーイが頼りなかった。こちらが困っていることを告げて、やっと動くという感じでしたね」
迷惑行為を行う客の対処をするのがボーイなど店のスタッフの仕事だが、早苗の働いていた店は積極的に嬢をサポートする者が少なかった。また客同士の口論、キャバクラ嬢への過度のセクハラ、オーダーミス、席でトラブルが起こった時など迅速に対処できるかがボーイには求められるが、そのどれに対しても満足のいく働きをしている者は少なかったという。
そんな中で早苗が一番苦労したのは営業が終わっても店の前で待ち伏せしている客の存在だった。毎日のように待ち伏せされていたため、入り口を通って帰宅するのは困難と判断した早苗はボーイになんとかしてもらうよう頼む。しかしボーイの客に対する言い方が弱かったのか待ち伏せは続いた。
「それからは隠れるようにして裏口から帰ってました。いくら迷惑なお客さんが来ても、店の中のことならほかにも人はいるし我慢はできたんです。でも外でのことはさすがに怖かったですね」
そしてある時、客の行動はエスカレートしていくことになる。
「裏口から帰ってるのがバレたみたいで、私が外に出るといきなり背後から腕を掴まれました。そのまま客の車に連れ込まれそうになったんです」
幸い、店が近かったこともあり、大声で叫んだ早苗はスタッフに助けられた。その時ばかりは頼りないボーイも「警察に通報するぞ」と客に対し威圧し、以来姿を現すことはなくなった。しかしキャバクラで働き続ける限り、別の客とまた同じことが起こらないとも限らない。あの日の恐怖が忘れられなかった早苗はしばらくして夜の仕事から距離を置いた。現在は明るい時間にOLとして働いているという。
(文・佐々木栄蔵)