昨年の黒潮盃を9番人気のマルヨフェニックスで快勝し、南関ファンの胸に鮮烈にその名を刻んだ尾島徹騎手(笠松・柴田高厩舎)。同じコンビで臨んだ先日の帝王賞でも、勝ったフリオーソから0秒4差の4着に入り、11番人気という低評価を再び覆してみせた。
そんな尾島騎手にとって2007年は飛躍の年だった。マルヨフェニックスと東海ダービーを制したのをはじめ、自己最多の年間96勝を挙げて笠松リーディング2位に躍進した。
そのきっかけのひとつとなったのが、06年10月に行ったJRA美浦・岩戸厩舎での武者修行だ。「笠松では逃げ、先行有利ということもあって自分もそういう戦法を取っていたけど、タメる競馬もできるようになった。レースの幅が広がりましたね」さらに、技術面のみでなく人間関係も広がり、支えてくれる仲間も増えた。
父に連れられて競馬を見るうちにジョッキーを志すようになった少年は、与えられたチャンスを生かし、いまや笠松競馬を代表する人気ジョッキーの一人に成長を遂げた。
今年の目標はさらに一歩進んで「年間100勝とJRAでの勝利」。13日にはマルヨフェニックスとともに、プロキオンS(GIII 阪神ダ1400m)でJRAに再度挑戦する。そのマルヨは前走が馬インフルエンザ明け。順調な調整過程を経て臨める今回は期待も自然と膨らむ。
一方でホームグラウンドの笠松は今、存廃問題で揺れている。今年5月29日に岐阜地裁は競馬を運営する岐阜県地方競馬組合に土地の明け渡し命令を下した。笠松といえばオグリキャップや安藤光彰・勝己兄弟らのスターを輩出したことで知られる。そんな地方競馬のメッカのひとつがなくなるかもしれないのだ。
そんな危機を吹き飛ばす活躍を見せてほしいと願うのは記者だけではないはず。最後に「ようやく目標とする安藤兄弟に1センチくらい近づいた気がする」と、優しい笑顔で話した尾島騎手。笠松の未来を担う一人の若武者は逆境にめげることなく、ひたむきに競馬と向き合っている。