「VWは世界市場でトヨタとシノギを削って争ってきた。今回の不正による信用失墜で、欧州などで過半を占めるディーゼル市場からしばらく撤退しなければならないでしょう。そうなれば、消費者が最初に目を向けるのはトヨタです。自社技術を普及させ、世界のFCV市場を主導したいとの魂胆が透けていたとしても、環境意識の高さは非常に評価されています」(欧州市場に詳しいモータージャーナリスト)
片や、「絶妙のタイミングで縁を切った」と称賛されたのがスズキだ。同社は4年前にVWとの資本・業務提携の解消を求めて国際仲裁裁判所に申し立て、長い法廷闘争の末に8月29日、「VWは保有するスズキ株を売却すべきだ」との判断が下った。VWとの“国際離婚”が成立したのに伴い、スズキは9月17日付でVWが保有する自社株(発行済み株式の19.9%)を買い戻した。その額、4602億円。VWはスズキ株を約2290億円で取得しており、この間にスズキの株高もあって2300億円余の利ザヤを得た計算になる。
「もし裁判所の判断が今回の大騒動後にずれ込んでいたら、厄介な事態もあり得た。尻に火がついたVWがスズキ株を第三者に高値で売却したかも知れません。そうなったら、スズキの乗っ取り騒動に発展していたはずです」(大手証券マン)
辛くも最悪の事態を回避できた格好だが、ここでスズキに「まさか」の失態が浮上する。VWがスズキに出資したように、同社もVWに出資、発行済み株式の1.5%を約300億円で取得していた。この株は当然、売却済みと思いきや、連休明けの9月24日、本誌の取材に対し同社の広報担当者から「まだVW株を保有している」との回答が返ってきたのだ。これでは、暴落の一途をたどるVW株を持ち続けるしかない。
ところが、本誌取材の翌々日(9月26日)、スズキは全株をVWの親会社にあたるポルシェHDに30日付で売却、367億円の特別利益を得ると発表した。前出の大手証券マンは「急激な株安に焦って売却したということ。株主代表訴訟を恐れたからに他なりません」と辛辣だ。
VWは不正を隠ぺいすべく、スズキにディーゼル技術を供与しなかったのか…。もしそうであれば、不正の闇は想像以上に深い。