同GMの言葉はリップサービスではない。しかし、日本ではあまり伝えられていない『不安要素』も抱えていた。
キャンプイン直前、アスレチックスは昨季、アストロズで正遊撃手を務めたジェド・ラウリーを獲得した(複数トレード)。ビリー・ビーンGMは低コストでチームを構成する。なのに、「中島と重複する選手」を獲ったのは、イマイチ信用していないということか…。
「現在、ラウリーは5人目の内野手とか、ユーティリティー・プレーヤーと位置づけられています。開幕から数試合は中島をスタメンで使うでしょう。その成績如何でラウリーと入れ換えるというのが、米国内の報道です」(米国人ライター)
中島に勝算はあるのか…。
まず、アスレチックスの本拠地『オー・ドットコー・コロシアム』は両翼101メートルの広域球場である。一発は出にくいが、中島のような右中間、左中間を破る打球の多いタイプは打率が稼げるとされている。また、西武時代から「選球眼の良いバッター」と言われてきた。「選球眼が良い=四球を多く選べる=出塁率が高い」の定理からすれば、出塁率に重点を置く同GMの好みのタイプとも言えるだろう。
マイナス材料もある。同球場は天然芝であり、西武からメジャーに挑戦した松井稼頭央のように、土のグラウンドに泣かされてきた例もある。同じ遊撃手としてメジャー挑戦した西岡剛は併殺プレー崩れを狙った一塁走者の強烈スライディングに泣かされた。ラウリーと『守備力』でレギュラーを争うことになれば、厳しいと言わざるを得ない…。
「ビリー・ビーンGMも日本人内野手がショートで成功した例がないのは承知しています。それでも、中島を獲得した理由は低コストの方針を一貫したかったからでした」(前出・同)
昨シーズンの補強の話になるが、アスレチックスは「打てる外野手」を探していた。米FA市場には強打のスラッガーがいないわけではなかったが、同GMは11年8月にキューバから亡命したヨエニス・セスペレス外野手と契約した(12年1月)。当時は「守備能力はメジャーの平均以下」と懸念材料も多く報じられたが、セスペレスは新人王投票で2位になる好打率を残してみせた。
「米FA市場の外野手よりも低年俸で契約できるというのが、獲得に踏み切った最大の理由でした。守備面での少々のマイナス要素には目を瞑り、打撃で貢献してもらう方針でした」(前出・同)
米FA市場よりも、低年俸も可能な外国人選手…。セスペレスの活躍が中島獲得を後押ししたようである。
アスレチックスは「ラウリーとアストロズの契約」を引き継いだため、今季終了と同時にラウリーはFAとなる。故障も多いとはいえ、得点圏打率も高いレギュラー遊撃手を放出した理由は「残留に高年俸を要する」と見たからだろう。中島が活躍すれば、ラウリーの方から出場機会を求めてトレード退団を申し出るかもしれない。中島の命運は開幕序盤で決まるだろう。
※メジャーリーガーのカタカナ表記は『週刊ベースボール増刊 Major LEAGUE /12年3/20号』(ベースボールマガジン社)を参考にいたしました。