天皇賞での残り400mで悪夢のアクシデントは起こった。逃げるコスモバルクが外へ寄れ、つられるようにエイシンデピュティが大きく外へと膨らんだ。そのアオリを食って各馬が玉突き衝突。ムーンもここで大きくバランスを崩した。
「トップギアに入ったところでぶつけられた。これでは競馬にならん。馬がかわいそう」
レース後、誰にもぶつけることのできない怒りを岩田康誠は何とか自らで押し殺し、こう語った。あれがなければ勝っていた…そういわないまでも、スムーズな競馬でメイショウサムソンと真正面からぶつかりたかった。
「みんな勝ちたいんやから仕方ない。もう終わったこと。次に向けてこっちは気持ちを切り替えている」
松田博師は世界戦でのリベンジに燃える。その準備は整った。1週前追いとなった14日にはDWコースで6F86秒0、終い1F12秒1をマークした。
「使っている馬だし、普通でいることが一番。距離も宝塚から1F延びるだけ。何も心配なことはない」
指揮官は最後まで前走のことは口に出さなかった。しかし、あの日の悔しさは決して忘れていない。だからこそ、世界を相手にしたこの舞台で、そのうっぷんを晴らすか。