「妻が亡くなったとき、お墓をどうするかが問題でした。田舎から東京に出てきて数十年がたち、次男の私は自分でお寺を探さなければなりません。しかし、子供もいないので、高い墓地使用料を払い、戒名をもらっても仕方ないのです。結局、都下の霊園で樹木葬をすることに決めました。自然に囲まれた墓地でとても満足しています」(東京都Aさん・73歳)
樹木葬とは、先祖代々のお墓を受け継ぐのではなく、一定の区画に墓石代わりに樹木を植える埋葬の仕方。日本では1999年に岩手県一関市の智勝院で誕生したのが始まりといわれている。独身高齢者や跡取りのいない人に人気があるが、最近では子供がいる家庭でも、あえて樹木葬を選ぶ人も多いという。
今年8月には東京都多摩地区にある都立小平霊園で『樹林墓地』の募集が初めて行われたが、500人分の募集に対して16倍を超える申し込みがあったばかり。しかもその中で「生前の申し込み」は325人分に対し、21倍を超えたというから、今や、ちょっとしたブームとは言えないくらいに多くの人が、従来とは大きく違う“人生の終わり方”を考えているのだ。
「元々、檀家制度など古くさい決まりにとらわれることに抵抗がありました。戒名をもらって数十万円、お盆や法事のたびに寸志を包み、やれ寺の改修だ増築だと寄付を求められる。宗教に対する思い入れもあまりないので、私が死んだら散骨してくれと妻には頼んであります。妻も納得してくれましたね。逆に妻が先に逝った場合は当然、私が散骨します」(72歳・男性)
驚く事なかれ、ネット上には『プライベート散骨プラン』『散骨クルーズプラン』など、船をチャーターして海上で散骨する商品までもが売りに出されている。
日本人の宗教観、葬儀に対する考え方はここまで変化していた。大きな霊園で高級御影石の墓石を建て、ご先祖様を敬うのがステイタスだった時代はバブルとともに消え去った。お墓さえ持たない時代がやってきたのだ。さて、あなたならどうしますか?