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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 朝日新聞は消えればよいのか

 朝日新聞社の木村伊量社長が9月11日に記者会見を開き、東京電力福島第一原発の吉田昌郎所長を政府の事故調査・検証委員会が聴取した吉田調書に基づいて、「所員の9割が命令に背いて逃げ出した」と報じた記事を取り消し謝罪。同時に、「従軍慰安婦を強制連行した」とする吉田清治氏の証言を紹介した記事を取り消したことと、訂正が遅れたことを謝罪した。

 私には二つ、大きな違和感が残った。一つは、木村社長への強烈なバッシングだ。確かに木村社長には経営トップとしての重い責任がある。ただ、従軍慰安婦に関する吉田証言に信憑性がないことは、研究者の間では'92年までには常識になっていた。だから、朝日新聞自身も、それ以降は吉田証言を紙面で紹介することを止めている。
 つまり、いまから20年以上前に朝日新聞は、吉田証言が信用できないことに気付いていたが、歴代の朝日新聞社長は、ほおかむりを続けてきたということだ。木村社長は、歴代の社長と同じように、吉田証言に触れるのを避けながら社長業をつつがなく終えることもできたはずだ。ところが、彼はあえて検証記事を作り、過去の過ちを謝罪した。その勇気は評価すべきではないのか。

 朝日新聞に対するもう一つの強烈な批判は、朝日のスタンスに対するものだ。朝日新聞は、誤報を謝罪したにもかかわらず、「広い意味での強制性はあった」として、いまだに日本軍による従軍慰安婦制度を人権侵害と主張し続けている。「朝日は国賊だ」、「そんな自虐的歴史観を持つ朝日新聞は、廃刊にしてしまえ」という批判さえ聞こえてくる。
 私は、この批判には、まったく賛同できない。朝日新聞が一定の価値観にもとづいてニュースを分析し、伝えてきたことは事実だ。しかし、そうしたことは、毎日も、読売も、日経も、みなやっている。

 私は、一応すべての全国紙をみるようにしているが、私の眼からみると、一番偏った紙面作りをしているのは日経新聞だ。
 竹中平蔵やロバート・フェルドマン、池尾和人といった新自由主義者ばかりを重用し、まるで日本経団連の機関誌のような論調を作っている。
 ただ、私は、それはそれでよいのだと思っている。それぞれの新聞が多様な視点を伝えるからこそ、読者は、どれが正しいのか選別するという思考ができるのであって、メディアに多様性がなくなったら、国民の思想の自由が奪われてしまうのだ。

 実は、いまでこそリベラルの代表のようになっている朝日新聞も、戦時期には国民を戦争に駆り立てるような報道を繰り返していた。つまり、「朝日が右傾化すると戦争になる」というのが、過去の苦い経験なのだ。だからこそ、朝日が論調を変えたら危険なのだ。
 安倍総理は9月14日のNHK『日曜討論』で、朝日新聞について「世界に向かってしっかりと取り消すことが求められる」、「まず『この証言は間違っていた』というファクトを朝日新聞自体が、もっと努力をしていただく必要もある」として、朝日新聞の吉田証言の訂正周知への努力を求めた。朝日新聞が、こうした政府の意向に過剰反応しないように望みたい。

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