電撃解任後も「巨人が悪いワケではない。務台さん(当時の読売新聞社社長)が一部巨人OBにだまされたんだよ。『長嶋を切らなければ、巨人は強くならない』と言われてね。オレが死んだら、棺桶に巨人のユニホームを入れてほしい」と言い続けていた長嶋さん。
ダイエー監督時代、ソフトバンクになってからも巨人監督復帰要請を受けながら「読売の勝手な都合でクビを切られたのに、なんでオレがまた読売の都合で巨人に戻らなければいけないんだよ」と言い放っていた王さん。その言動からすれば、現在のONの姿は当然の帰結のように思えるが、それほど単純なものでもない。
「オレ達がいたから今の巨人があるのは事実だろう。でも、巨人に入団したからこそ今のオレ達があるのも、これまた認めないワケにはいかない。他の球団に行っていたら、こうはいかなかっただろう。やはり巨人は特別な球団なんだよ」
長嶋さんも王さんも、巨人と運命共同体でスーパースターの座を獲得したことを素直に認めているからだ。水面下で何度か巨人監督復帰要請があった時に、「何がいまさら巨人だ」と強い口調で言いながら、王さんの顔には笑顔があり、満足げな様子すら見えた。巨人復帰のラストチャンスは4年前にあった。シーズン中に、巨人・星野仙一監督就任大騒動が起こり、最終的に原監督の巨人復帰が決まる前に、渡辺球団会長から巨人復帰を打診されている。
「会ったのは事実だよ。今、ソフトバンクの監督をやっている身の上だから、無理ですと断ったよ。当然だろう」と淡々とトップ会談を口にした。が、古巣・巨人への変わらぬ愛着、「オレもミスターも2度巨人の監督をやった。王ももう一度巨人の監督をやるべきだ。戻ってこい」という、故藤田氏らOBたちのカムバックコールに心が動いたことがあるのも事実だろう。
昨年12月の巨人OB会の総意として、長嶋会長の後任に推挙され引き受けることにしたのも、巨人への愛着に他ならない。いくら親睦団体の巨人OB会とはいえ、ソフトバンク球団会長の要職にある身の上なのだから、OB会長に就任するのは筋を通すことを一番大事にする王さんらしくない行動だ。「OB会長といっても、総会とか年に何回かしか仕事はないからね」と言うが、これまでの王流からすれば信じられない。それだけ巨人への思いが強いのだ。
そんな巨人に終生ライバルの長嶋監督が復帰したことが、王さんにダイエー監督就任を決断させる直接的な引き金になっている。ON決戦、日本シリーズで長嶋監督率いる巨人を倒すことで、誰もが認めるナンバーワンの座を獲得できる。「記録の王、記憶に残る長嶋といわれるけど、野球は記録がすべての世界だろう」。通算868本塁打の世界の王は、ナンバーワンの自負をこう語っている。
20世紀最後の2000年、ついにONシリーズが実現するが、王監督は長嶋監督に返り討ちに遭い、またまたナンバー2にとどまってしまう。