ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の株式については、公明党が「早期にできるかぎり多く処分する」と政府保有継続に含みを残す主張をしてきたのに対し、自民党は完全処分を主張していたが、「全てを処分することを目指し、両社の経営状況等を勘案しつつ、できるだけ早期に処分する」とのことで両党が合意した。
民主党もこれを受け入れる方向であることから、郵政民営化見直し法案は、今国会で成立する見通しとなった。結局、民主党がマニフェストに掲げた「郵政民営化の見直し」は、またもや崩れ去ってしまった。
2009年の民主党マニフェストには以下のように書かれている。「日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の株式売却を凍結するための法律(郵政株式売却凍結法)を可及的速やかに成立させる。郵政各社のサービスと経営の実態を精査し、国民不在の郵政事業の4分社化を見直し、郵便局のサービスを全国あまねく公平にかつ利用者本位の簡便な方法で利用できる仕組みを再構築する。その際、郵便局における郵政三事業の一体的サービス提供を保障するとともに、株式保有を含む郵政会社のあり方を検討し、郵政事業の利便性と公益性を高める改革を行う」。
公益性という今回の法案修正とは正反対の理念を民主党は掲げていたのだ。
そもそも民主党が郵政民営化見直しを掲げたのは、郵政事業維持への危機感からだった。2000年度末に250兆円あった郵便貯金残高は、2010年度末には176兆円となり、30%も減少している。かんぽ生命の保有契約件数も、2000年度には7962万件だったが、2010年度には3794万件と、半減している。
ゆうちょ銀行やかんぽ生命の事業が急速に縮小したのは、民営化で法人税など民間並みの負担が生じる一方で、ゆうちょ銀行の預け入れ限度額やかんぽ生命の業務範囲規制など、事業を縛る規制が続いてきたからだ。このまま事業縮小を放置したとすれば、郵便局のネットワークを維持できなくなる。
もちろん、ゆうちょ銀行や簡保生命の株式を完全に売却してしまえば、これらの規制はなくなる。しかし、完全民営化ということになれば、地方の郵便局が切り捨てられる可能性が高い。そこで、民主党の見直し法案では、政府が郵便事業を統合した「日本郵政」の3分の1以上の株式を保有し、さらに日本郵政が、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の3分の1以上の株式を保有して、政府のコントロール下に置くことにしたのだ。
もちろん今回の自公による修正案は、売却を努力義務にとどめているので、すぐに何かが起きるわけではない。だが、株式売却が進めば、大きな影響が出ることは間違いない。
たとえば、外資が大きなシェアを獲得すれば、必ず運用に口出しをしてくるだろう。現在、10年満期の国債利回りは、アメリカが2.2%、日本は1.0%だ。一方、格付けはアメリカがAA+、日本がAA-だ。格付けが高くて、利回りの高い米国債での運用を提起されたら、それを止めるのは難しくなるだろう。
国債発行額の3分の1を保有する郵政が揺らげば、日本の財政が危うくなる可能性は高い。郵政の完全民営化で幸せになるのは、日本国民に米国債を押しつけるアメリカだけではないか。