朝青龍には「ウソつきは泥棒の始まり、まして横綱は力士の鑑(かがみ)、絶対にウソをついていけない」という世間の常識は通用しないようだ。
名古屋場所では、千秋楽も白鵬に土俵下までブン投げられるなど、横綱になって2度目の10勝5敗という惨敗に終わった朝青龍。26日の取組を終え、肩を落として支度部屋に戻ってくると、「(前半は)すごくいい道だったのに、途中から土砂崩れになった。悔しいな」と唇を噛み、場所後は、恒例となっているモンゴルには帰国せずに日本に留まることを明言。痛めている左ひじや、右肩などの治療や休養につとめた上で、8月7日から始まる夏巡業で猛けいこを積むことを高らかに宣言した。
宿敵・白鵬は目に見えて強くなっている。琴欧洲、日馬富士ら、下からの突き上げも激しい。いつものようにモンゴルに戻っていたら、また惨敗に終わるのはハッキリしている。すでに3場所も賜杯から遠ざかり、これ以上優勝争いにも加われない状態が続いたら、引退問題も再度、起きることは必至な状況にある。この帰国自粛は正しい選択だった。朝青龍は自分の置かれている状況をようやく把握したと思われ、「彼もやっと常識人として立ち直ってきた」(相撲関係者)という声も上がっていた。
しかし、それからたった2日しか経っていない今月28日に、朝青龍は前言をみごとに翻して相撲協会に海外渡航届を提出すると、マスコミの目の光っている成田からではなく、大阪の関西国際空港からさっさとモンゴルに帰国してしまったのだ。
朝青龍のウソはいまに始まったことではない。優勝決定戦で白鵬を破り、23回目の賜杯を抱いた今年の初場所でも、NHKテレビが全国に中継していた優勝インタビューの中で「(場所後は)モンゴルには帰りません」と明言しながら、場所後はケロッとした顔で機上の人となっている。朝青龍は今回なぜ突然ウソをついたのか。
「いま、モンゴルは若草が国中を覆い、新鮮な馬乳酒も取れ、1年で最もいい季節。白鵬、日馬富士ら、ほとんどのモンゴル人力士も千秋楽翌日の成田発ウランバートル行きの飛行機に乗り込み、大挙して帰国しています。朝青龍もそれを見て、急に帰りたくなったんじゃないですか」と協会関係者は苦笑いしている。
まるで子供のようだ。ただ、モンゴルではいま、名古屋場所前に日本で公表したタミル前夫人との離婚報道が過熱している。そんなところに帰国しては火に油を注ぐようなもので、休養どころではなくなるのは明白。「わざわざ騒ぎを起こしに帰ったようなものだよ」と語る部屋関係者もいる。そうなったらそうなったで、またひと悶着起こるのは必至だ。
さらに別の相撲関係者は言う。「彼はもう相撲界に未練は持ってないんじゃないか。体力的にも横綱として満足できる取組はのぞめない事を本人が一番知っており、次の“就職先”のメドを立てていると思いますよ」と格闘技転向を匂わす発言をしている。
再来日は夏巡業の始まる直前の8月6日の予定。果たして朝青龍はどのツラ下げてファンの前に現れ、どんなコメントを出すのか見ものである。