こんな季節は、キャバクラも「お花見」イベントをしたりしています。某銀座のキャバクラに務めるA嬢(23)も、営業電話をしたきた中で、
「ねえ、てっちゃん、もう今年は、お花見したの?」
と聞いてきました。私は今年、この電話の段階では、花見には行きませんでした。その旨を伝えると、
「じゃあ、おいでよ。お店の中で桜が咲いてるよ」
「え? 店内に?」
「そうだよ」
「造花なの?」
「違うよ、本物だよ。一緒に桜を見ようと」
もう3年以上の付き合いのある嬢なのに、なぜこんな営業電話しかできないのでしょうか? あからさまな営業では、私が店に行かないことを知っているのに。もしかして、店の人に対してのアピールなのかな? と思ってしまうほどです。
それにしても、今年の4月は、いつもの年よりも「花見」という言葉を使っての営業メールや電話が多いですね。なぜでしょうか? それだけ、キャバクラの経営が厳しいということでしょうか。
この原稿を書いているときにも、
<渋井さん、お久しぶりです。もうお花見はしましたか?>
というメールが届く。ただ、このときは、私が連絡先を登録していなかったので、誰かが分からない。友達かもしれないけど、タイミングとしてはキャバ嬢からもしれない、と思っていた。こういうとき、いきなり「あなたはだれですか?」と聞く訳にもいかない。
登録していない人からメールが来たとき、どうやって相手を確認するのか。いつも悩むものです。友人らに相談したことがありましたが、
「携帯電話の機種変更して、アドレスが全部移行できなかったことにしちゃえばいいんだよ」
という結論になったことがあります。つまり、あなたの連絡先が今の携帯電話に登録されていないのには、私のせいではなく、機械のせいだ、というメッセージを発することになるからです。
結局、このメールの主は六本木のクラブ嬢だということがわかりました。しかし、名前は思い出せても、顔が思い出せません。もしかすると、相手も私がどんな顔か思い出せていないかもしれない。だとすれば、おそらく、その程度の関係なのでしょう。ただ、相手は覚えているかもしれない。どのような返信を書くかを悩んで、
<名前は覚えています。でも、顔を思い出せないよ>
と送ったのでした。
なぜ、私はいつも、「繋げよう」とするメールを送ってしまうのだろう。もし、気に入らなければ、連絡先を登録していない嬢のメールに反応しなくてもよいのにと思っているのに。しかし、何かつながっていれば、何かの「展開」があったり、嬢が成長する姿を見れるかもしれない、って思ってしまうんですよねえ。それが、営業メールばかりが届いてしまう理由なのかもしれない。
<プロフィール>
渋井哲也(しぶい てつや)フリーライター。ノンフィクション作家。栃木県生まれ。若者の生きづらさ(自殺、自傷、依存など)をテーマに取材するほか、ケータイ・ネット利用、教育、サブカルチャー、性、風俗、キャバクラなどに関心を持つ。近刊に「実録・闇サイト事件簿」(幻冬舎新書)や「解決!学校クレーム “理不尽”保護者の実態と対応実践」(河出書房新社)。他に、「明日、自殺しませんか 男女7人ネット心中」(幻冬舎文庫)、「ウェブ恋愛」(ちくま新書)、「学校裏サイト」(晋遊舎新書)など。
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