他にも、「下剋上」を狙う多くの各地域代表のサッカークラブの奮闘ぶりが目立つ。
■苦しむ新潟、高知ユナイテッドSCの躍動
J2アルビレックス新潟のホーム、デンカビッグスワンスタジアムでは、J2新潟と高知県代表の高知ユナイテッドSCとの試合が行われた。
アルビレックス新潟のスタメンには、リーグ戦での控え選手が多く名を連ねる。MFの坂井大将やサイドバックの川口尚紀は、今シーズン開幕当初はレギュラーだったものの、ここ最近はその座から離れている。GK大谷幸輝も、昨年は主力としてJ1で新潟のゴールマウスを守っていた実力者だ。いずれもこのカップ戦出場でどれだけ勝利に貢献し、レギュラー復帰への足掛かりをつかめるか。また、売り出し中のルーキー渡邉新太、戸嶋祥郎は試合を決定付ける仕事が求められる。
対戦相手も含め、リーグ戦とは違う顔触れの選手たちのゲームに対する表情や普段とは違う立ち位置での役割を見ることが出来、一発勝負への意気込みもまたカップ戦の醍醐味だ。そしてもう一つの見どころは、言うまでもなくJクラブが足元をすくわれる波乱、いわゆる「ジャイアントキリング」が成されるかである。
アルビレックス新潟は天皇杯では下部リーグクラブに対し、毎年のように苦戦を強いられてきた。そして今回も、高知ユナイテッドSCの圧力には最後まで苦しめられることに。
開始2分、新潟ゴール前左サイドから、高知MFオン・ビョンフンのシュート気味の鋭いクロスがそのまま枠を捕らえ、キーパーがキャッチするも緊張感がスタジアム内を覆う。さらに高知は22分、ゴール前の混戦からパスを繋ぎ、世代別代表経験のある背番号10・横竹翔がフリーで抜け出し、エリア内で強烈なシュートを放つ。これも大谷が防ぐも、新潟ディフェンスが完全に崩された場面だった。その後も高知は引いて守る姿勢は微塵もみせず、高い位置でボール奪取に挑み続け、スタンドには否応なく波乱の匂いが漂い続ける。
さらに、その予感を現実に近づける要素として十分だったのが新潟の攻撃の拙さだ。
守備から攻撃への切り替えが遅く、特に縦への有効なボールが送られるシーンがみられない。また、両サイドからのクロスは精度を欠き、意表を突くラストパスも無く、得点の気配は感じられないままゲームが進み、攻守の「スイッチ」は最後まで機能することはなかった。途中出場のチーム得点源であるFW河田篤秀がシュートを放つものの、クロスバーやキーパー・溝ノ上一志のビッグセーブに阻まれた。
試合は延長戦までもつれ込み、さらに無得点のまま迎えた延長後半終了間際、高知は最後の4人目の交代としてゴールキーパーをかつて湘南ベルマーレにも所属していた黒沢準に替え、PK戦での勝利へ執念をみせる。新潟は加藤大、原輝綺といったレギュラークラスをピッチへと送るも、ゴールを奪えなかった。
■伝わるサポーターのクラブへの愛情も
PK戦は昨年からFIFAの各種大会で導入されている「ABBA方式」で行われ、全員が決めた新潟が5−3で勝利、辛くも3回戦進出を決めた。だが、高知ユナイテッドSCは地力をみせ、逆に新潟は今季のJ2リーグでの不振がそのままこの試合でも表れていた。
この日の入場者は2241人。そのほとんどが新潟サポーターと思われるスタンドからは、幾度となくため息が漏れ、発せられる中には厳しい声も少なくなかった。ただ、自らのクラブに対し愛するが故の歯がゆさからくるものであり、両チームとも勝利を目指した姿は気迫に溢れていた。また普段、馴染みのないユニフォームのプレイを目の当たりにすると、改めてのサッカーの奥深さが伝わってくる。
ビジター席の一角に僅かに陣取っていた高知サポーターからは、その人数を感じさせない程、力強い歌声が響き、選手を後押しする声援が絶え間なく聞こえていた。試合後、新潟サポーターのスタンド前まで向かい挨拶をする高知ユナイテッドSCの選手たちには、スタジアム全体から大きな拍手が送られた。これもまた、天皇杯ならではといえる光景だった。(佐藤文孝)