新宿のガールズバーで、最もお気に入りの店は、歌舞伎町の奥の方にあるのだが、今回の話題にしたい店は、歌舞伎町の真ん中にある。歌舞伎町で飲んだことのある人なら、行ったことはないとしても、話題となったり、見たことはある店だろうとは思う。
数日間で2度行ったというが、なぜ、一度目に行ったのか、といえば、飲む時間が早かったからだ。夕方から飲み始めたのはよいものの、一緒に飲んでいた人と別れて、19時には一人で飲んでいる状況だったのだ。だから、ちょっとワイワイしたくて、店を探すのだが、キャバクラには早い時間だし、よく行くバーもやっていないという「魔の時間」だったのだ。
そこで、その時間からやっているガールズバーに行くことにしたのだ。この店に来たのは数か月ぶりだった。見たことのある子がいる一方で、知らない子もたくさんいた。指名をしなかったので、誰かとの会話が特別楽しかった、わけではない。しかし、雰囲気にのまれてしまい、つい延長を2回もしてしまった。この店延長したのは、以前、指名していた子がいた時くらいだった。それだけ、何かが楽しかっただろう。
そして、数日間で2回目となったのは、お盆の真っ最中で、女の子も客も少なめだった。
その日は、コミケ帰りだった。コミケというのは「コミックマーケット」とのこと。世界最大の同人誌即売会で、現在は東京ビックサイトで開かれている。同人誌の即売だけではなく、コスプレイヤー(略して、レイヤー)たちが、アニメやマンガ、ゲームのキャラクターになりきり、それをカメコ(カメラ小僧)たちが撮影するのだ。私もカメコの一員として撮影してきたのだ。
なぜ、コミケの後に行きたくなったのか。ガールズバーの子にも聞かれた。私は、こんな風に答えた。もちろん、正直な答えだ。
「コミケに行ってきて、レイヤーたちの写真を撮ってきたんだ。でも、なかなか自分好みのレイヤーがいるわけではなく、とても残念だった。ただ、好みのレイヤーがいないわけではない。とはいっても、そこで何かを話せたり、何かが始まるわけではない。それに、会場が雑多なだけに、満足の行く写真が撮れるわけでもない。だから、フラストレーションがたまったのかな。人を話したくなった。“人”っていっても、それなりの好みのコとね」
コミケでたくさん、可愛いレイヤーたちを見てきて、写真も撮ってきて、それなりに満足ではないか、と自分では思っていたんだけど、急に、コミュニケーションの欲求が出てしまったのでしょうね、と他人事のように言うけど、本当にそうした感覚だったんです。これまでコミケには何度も行ったことあるけど、こんな感覚は始めてだった。
そんなにコミュニケーションの欲求があったのは、もともと求めているからというのもあるけど、いま、書籍の原稿を執筆中というのも大きい。書籍原稿を書いている時って、自分のセカイの中に入る混むから、孤独になるんですよ。
<プロフィール>
渋井哲也(しぶい てつや)フリーライター。ノンフィクション作家。栃木県生まれ。若者の生きづらさ(自殺、自傷、依存など)をテーマに取材するほか、ケータイ・ネット利用、教育、サブカルチャー、性、風俗、キャバクラなどに関心を持つ。近刊に「実録・闇サイト事件簿」(幻冬舎新書)や「解決!学校クレーム “理不尽”保護者の実態と対応実践」(河出書房新社)。他に、「明日、自殺しませんか 男女7人ネット心中」(幻冬舎文庫)、「ウェブ恋愛」(ちくま新書)、「学校裏サイト」(晋遊舎新書)など。
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