課徴金そのものは、不正利益の中から中央三井が得たファンド報酬額に沿って算定されることから、わずか5万円の納付命令にとどまっているが、投資のプロが公募増資のインサイダーで摘発されたこと自体が「前代未聞の大事件。監視委は一昨年の夏以降、執念の内偵の末にやっと摘発にこぎ着けた。当然、次のステップが視野にある」と市場関係者は打ち明ける。
インサイダー取引が表面化したのは中央三井アセットの株式運用担当者。国際石油開発帝石が2010年7月に公募増資を行った際、主幹事を務めた野村證券の営業担当から事前に情報を入手し、国際石油開発帝石株を空売り(保有していない株式を証券会社などから借りて売り、下落してから買い戻して返す投資手法)、運用する海外投資家向けファンドに約1400万円の利益をもたらしたという。
現行法ではインサイダー情報を入手して利益を得た者は処罰の対象となる半面、組織を含めた情報提供者は罪に問われない。しかし、関係者は「情報を漏らしたのが野村の女性営業員」だったことに驚きを隠せない様子で語る。
「証券会社は、企業の増資やM&Aなどを担当する投資銀行部門と、投資家に株式などの売買を勧める営業部門の間に情報の壁を置くほど情報管理を徹底させている。それにもかかわらず、野村の女性営業員が本来ならば知り得ない増資情報を入手し、これを漏洩した事実が明らかになったのは言語道断です。情報管理がルーズだった何よりの証拠で、ことによると他の営業員も関与していた可能性だってある。当然、監視委はインサイダーの闇に切り込むでしょうし、これでパンドラの箱が開いたら野村の信頼は失墜します」
今回のインサイダー摘発に際し、当の野村は「まことに遺憾。当局の調査に全面的に協力する」とのコメントを発表したが、2010年9月に同社が主幹事を務めた東京電力の公募増資を巡っても、大掛かりなインサイダー取引疑惑が囁かれている。
「東電だけではありません。あの当時は日本板硝子、相鉄HDなどでも増資インサイダー疑惑が公然とくすぶり、海外の投資家から『日本はインサイダー天国だ』と非難された。これに危機感を募らせた監視委が解明に向けて調査を開始したのですが、海外のヘッジファンドを含め関係者の口は予想外に堅い。そのため膨大な売買の中からコツコツと疑わしい関係を洗い出し、やっと摘発の第1号にこぎ着けた。従って第2弾、第3弾はもちろん、証券会社に対しても業務改善命令だけでなく、刑事罰の対象にも加えるよう金融庁に働きかけています」(証券記者)