そんなウナギを狙って、東京都は足立区の綾瀬川にやってまいりました。東京でも綾瀬や亀有といった界隈は、どことなく昭和な香りが残るエリアで、この川もまさに「昭和のドブ川」といった雰囲気です。
この綾瀬川は毎年、国交省から発表される全国一級河川水質現況調査(別名:全国汚い川選手権)で1980年から15年間連続優勝という、白鵬も顔負けの輝かしい経歴を持つ、いわばドブの大横綱。D専(ドブ専)のワタクシにすれば、釣り場として相手に不足はありません。
さて、そんなドブ川にウナギなんているの? と思われるかもしれませんが、多分……、います。というのも、昨年、この連載で大阪城公園近くの城北川でウナギを釣っており、この城北川もなかなかにハイレベルなドブ川でした。
とはいえ、今回は多くの優勝経験を持つ綾瀬川ですから、ドブの格が違います。果たして、ウナギは釣れるのか?
★暗がりに蠢く長物に歓喜!
さて、日没前のまだ明るいうちに今回の釣場となる東京メトロ千代田線の鉄橋付近に到着すると、釣り人の姿はありません(当たり前か)。この釣場の最大のメリットは、川と平行に高速道路が走っていること。つまり、今日のようにシトシトと雨の降る梅雨空でも、まったく濡れずに竿を出すことができるんですね。
それにしても、初めての釣場というのはワクワクするものです。逸る気持ちを抑えつつ、3本の竿に仕掛けを結び、エサのミミズを付けて投入、竿の先に鈴を付けたらセット完了。後は魚が食いついて鈴が鳴るのを待つばかりです。
周囲に目をやれば、鉄橋には電車が頻繁に行き交い、人通りや車の往来も多く、およそ「自然」とは対照的なこの環境。無機質なコンクリート護岸のドブ川に向かって竿を出す、この何ともいえない感覚こそが、ドブ川釣りの魅力と言えましょうか。
さて、30分ほど待ちましたがアタリはなく、仕掛けを上げてみるとエサは取られておりません。といっても、ウナギ釣りは暗くなってからが本番ですから「そのうち釣れるでしょう」と、エサを交換して再び仕掛けを投げ入れます。ウナギ釣りはこの「のんびり感」がまたいいんですな。
待つことしばし、あたりもだいぶ暗くなり、夜行性のウナギがいかにも蠢き出しそうな雰囲気になってきました。
「そろそろやな…」と思ったタイミングで「チリンッ」、と短い鈴の音が。さらに待っていると「チリリリリリンッ!」と激しい鈴の音とともに1本の竿尻が浮きました。ここで竿を手にしっかりと煽ると、確かな重量感が伝わります。
のんびりしていると障害物に潜られたり、仕掛けに絡み付いてハリを外されたりするので、強引な速巻きで巻いてくると、「バシャバシャッ」と水音をたてて上がってきたのは、45センチほどのウナギです。
「やはりいたか(ニヤリ)」とウナギを針から外していると、またも「チリリリリンッ!」と激しい鈴の音が鳴り響きます。
★万全を期したがこの香りは…
慌てて竿に駆け寄り巻き上げると、さらなる重量感で50センチほどの丸々と肥えたウナギです。この調子ならさらなる追釣が望めそうな場面ではありますが、この2本でもう十分に納得。竿を仕舞うことにしました。
帰宅後はさっそく、鰻丼で賞味。なのですが、前述の城北川のウナギでは下水処理臭に閉口したこともあり、今回は皮を剥いでスキンレスウナギにして食べてみることにします。皮目の脂は、旨味であると同時に臭いが付きやすいので要注意。
剥いだ時に物凄い脂乗りが感じられたことで、ひょっとしたら? と期待しつつ熱々をパクリ…。う〜ん、やはり下水処理臭といいますか、ドブ鰻特有の香りが鼻につきますな。
とはいえ、責任を持って完食することもドブ師の務め。キリッとした飲み口が特徴の『嘉泉 極め付け辛口』の助けを借りつつ完食…。ごちそうさまでした。
まあ、味の評価はさておき、今回はドブの横綱で釣ったことに満足。と言いつつも、高級魚ともいえるウナギがせっかくいるのに、残念な味に染まってしまう環境って、何だか切ないですねぇ…。
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三橋雅彦(みつはしまさひこ)子供の頃から釣り好きで“釣り一筋”の青春時代をすごす。当然の如く魚関係の仕事に就き、海釣り専門誌の常連筆者も務めたほどの釣りisマイライフな人。好色。