本作は水滸伝の物語をテーマにしたシミュレーションゲーム(SLG)。同ジャンルを得意としていた光栄から発売されている。しかし、一般にも知名度の高い『信長の野望』や『三國志』シリーズと比べると本作はマイナーな存在で、セールス的にも振るわなかったようだが、プレイヤーからは高い評価を得ている。その要因は原作がフィクション(部分的には事実も含まれているらしいが)であることから、歴史的事実に囚われない自由な作風が可能であったことによる。また、一介の好漢達が国を動かすほどの人気と力を得ていった経過が上手く再現できていることもあるだろう。そして、何よりもその全てが絶妙なゲームバランスのうえに成り立っていることが素晴らしい。数多く存在する光栄のSLGの中でも、本作は最高峰ともいえる完成度を持っているのだ。
『三國志』や『信長の野望』で主人公となっているのは各地を治めている君主(大名)であり、領地からの収入があれば付き従う武将や兵士も存在する。そのうえで同等の立場である他の君主を倒して天下を統一すれば目的達成というシステムが採用されている。しかし、本作では選択可能な主人公(好漢)のほとんどは罪人であり、逃亡者として転々としている。彼らには治める領土もなければ配下の武将もいない。まさに己の身一つでゲームが始まるのである。
それに対し、本作の最終打倒目標である高俅(こうきゅう)は中国大陸の大部分を治め(宋の皇帝を丸め込み政権を牛耳っている)、兵力・配下の数・経済力で圧倒的な存在だ。この一見無理目な設定こそが本作のおもしろい部分で、プレイヤーは逃亡先の空白地で旗揚げし、奉仕を行うことで人気を得てようやく一地区の支配者として認められる。その後は支配地を広げながら人気を得て仲間を増やしていくのだが、先にも述べたとおり本作の目的は全国統一ではなく高俅の打倒である。そのため領土を広げるのは目的ではなく人気を得るための手段になっている。そのため、辺境の地まで足を運び版図を埋めるという作業は必要がない。それどころか無駄な領土の拡大によって高俅の支配地と接すれば賄賂を要求され、断れば官軍による討伐を受けてしまうのだ。
光栄のSLGの欠点はプレイヤーが一定の勢力になる頃には国力が他を圧倒し、以降のゲームが作業になってしまうというものがある。しかし、本作では先述のように全国統一の必要はない。しかも初めから国力差が大きいこともあり、プレイヤーがそれなりの版図を得てようやくCPUと同等になれる具合。こういった理由から本作は最後まで緊張感を持ったプレイが可能で、作業感がかなり薄くなっている。そのうえ、本作には時間制限もあるのだ。史実では宋(北宋)は1126年に金(満州地域にあった女真族の国家)に滅ぼされるのだが、本作でも同様の年代に到達すると金の侵攻によりゲームオーバーとなってしまう。この仕様も緊張感を途切れさせない一因になっている。また、SLGにつきものの戦闘シーンも特徴的で、季節によってマップに変化が起こるなどの工夫が取り入れられており、飛び道具・一騎打ち・火計・妖術など多彩な攻撃方法も戦闘を盛り上げる。これが今から四半世紀以上前に制作されていたのだから驚きだ。
本作はとにかくSLGファンには是非とも遊んでほしい作品で、かなり古いゲームながら面白さは保証付きである。本来はPC-88などで発売されていたゲームだが、ファミコンやPSにも移植されておりWin版も存在する。そのうえ、コーエーのゲームシティではブラウザ上でのプレイも可能になっている。便利な時代になったものだ。
余談だが本作には続編『水滸伝・天導一○八星』も存在し、こちらも傑作としてファンから高評価を得ている。同作ではリアルタイム性と箱庭マップを採用し、後のコーエーのSLGの方向性を先取りした形だ。ただ、こちらはコンシューマー移植のセガサターン版とPS版がともに簡易版になっており、オリジナルのWin版は入手しにくく現行のOSでの動作(XPでは動く)も保証できない。マイナー作品ゆえにリメイクや現行ハードへの移植も期待できないのは残念なところだ。
(須藤浩章=隔週月曜日に掲載)
DATA
発売日…1988年
メーカー…光栄
ハード…PC
ジャンル…シミュレーション
※写真はPS版のものです(C 1988 KOEI CO.,LTD.)