98年フランスW杯では「1勝1敗1分の勝ち点4で予選リーグ突破」を目標に掲げた岡田監督。初出場の日本にしてみれば極めて現実的なものだった。が、周囲からは「代表監督が負けていいと言うなんて問題だ」と容赦ないバッシングが浴びせられた。執念深い彼は当時の批判を忘れてはいないはずだ。今後1年、選手のモチベーションを維持させるために、あえて高いテーマ設定が必要とも感じたのだろう。
そこで飛び出したのが「4強進出」だ。2007年12月、オシム前監督の急病に伴い代表指揮官に復帰した岡田監督は「世界を驚かそう」といきなり選手たちを鼓舞した。2002年の日韓W杯では同じアジアの韓国が4強に進出している。「ならば日本も」というのである。
ところが、日本は過去W杯3大会で2勝のみ。それも自国開催の2002年大会でロシアとチュニジアに勝っただけだ。今でこそロシアはヒディング監督が指揮する一流国だが、当時は世界トップ10レベルではなかった。チュニジアも同様だ。4強に入るためには、イングランドやドイツ、イタリアといった強豪国を撃破しなければならない。それも南アという未知なる異国でだ。岡田監督の目標がいかに壮大なものか分かるだろう。
「正直、山の頂上は全然見えてない」と昨年末のFIFAクラブW杯でマンチェスター・ユナイテッドに打ちのめされたガンバ大阪の橋本英郎は本音を吐露した。
今季ドイツ・ブンデスリーガ優勝に大きく貢献し、世界基準を知る長谷部誠(ヴォルフスブルク)でさえ「世界にはたくさんの素晴らしい選手がいる。自分なんかドイツでは体も弱い方。ドイツ人と対等にやれるようになって初めて一人前」という弱気な発言をするほどだ。
欧州チャンピオンズリーグ決勝トーナメントを2度経験した中村俊輔(セルティック)だけは「たぶんこのくらいで4強に行けるというのは自分の中ではある」と唯一、具体像を持っている様子。
しかしそのエースも2006年ドイツW杯では何もできずに惨敗。世界トップとの大きな実力差に打ちひしがれた。
岡田監督は「4強レベルの国と我々との現状の差を明確に認識するところから全てが始まる」と世界トップ級との真剣勝負を熱望している。
さし当たって9月にオランダ、ガーナとの親善試合が組まれるが、その後はまだ白紙。トルシエ時代はフランスやスペイン、オシム時代はスイスと、外国人監督のコネを使って強国とのマッチメークができたが、岡田監督や現日本協会にそこまでの人脈はない。指揮官の思惑通りの「強豪参り」が実現するか怪しいところだ。
普通の強化をしていたのでは1勝も危ういのがW杯だ。日本代表の現状を考えたら、4強入りはあくまでもお題目。現実的目標は「1次リーグ突破」と見た方が無難ではないか。