8月9日の中日戦以降、横浜DeNAベイスターズの主砲・筒香嘉智外野手(27)が、2番・三塁で出場している(20日時点)。2番という打順もビックリだが、三塁でのスタメン起用にはファンもド肝を抜かれた。サードを守る宮崎敏郎の故障離脱により、緊急コンバートされたのだが、筒香の三塁守備は2014年5月5日以来、約5年ぶり。「打撃優先」で外野コンバートされた経緯も有名なだけに、「大丈夫かよ!?」と心配する声は尽きない。
「高校時代はサードを守っていましたが、その当時から守備の巧い方ではありませんでした。プロに入って体も大きくなったので、俊敏な動きは見られません」(プロ野球解説者)
試合前のノックで筒香がサードに入るシーンは何度か見られた。「遊び」というヤツで、トリッキーな采配を好むラミレス監督でなければ、この抜てきはなかっただろう。
ア・リーグ中部地区のスカウトが「サード・筒香」をこう評する。
「メジャーでは、筒香の内野の守備力は平均値以下。彼の後撃力は高く評価されていますが」
日本では「打撃優先」で内野から外野にコンバートされたスラッガーは少なくない。同様に、守備難の選手に一塁を守らせることが多い。
しかし、メジャーの内野守備に関する考え方は、日本とは異なる。セカンド、ショートの二遊間に守備の巧い強肩選手を置くのは同じだが、やや守備に難のある内野手には一塁ではなく、三塁を守らせる。つまり、打撃優先の選手が守るポジションが、三塁なのだ。守備に就かない指名打者制ではまた少し考え方も異なるが、「三塁手=強打者」「チームの看板選手」という解釈がされている。
つまり、メジャーリーグへの挑戦志望を持つ筒香にとって、三塁守備はマイナスでしかないのだ。各チームの主軸バッターとレギュラー争いをしなければならず、近鉄、中日、楽天、DeNAなどで活躍した中村紀洋氏もこの競争に敗れている。
また、外野手に関する米球界の考え方でも、日本とは解釈が異なるようだ。
「マイナーリーグの若手ならともかく、打撃優先で内野手を外野にコンバートすることはほとんどありません。でも、そういう日本の考え方は米国でも広まっているので、筒香は守りの巧くない選手とも認識されています」(米国人ライター)
一軍登録されているDeNAの内野手の顔ぶれを見ると、三塁を守れる選手はほかにもいた。それでも、あえてラミレス監督が筒香を選んだのは、チームの雰囲気を変える目的もあったのではないだろうか。
DeNAの控室は明るい。ポップ系のBGMが流れていて、笑い声が聞こえるときもある。対照的にひと言も喋らない球団もあれば、先輩たちが談笑する若手を「コドモ!」と叱るチームもある。どちらが良いかという話ではないが、DeNAの団結力はこの明るさによって育まれ、BGMの導入など雰囲気の一新を図ったのが筒香だった。
その筒香は今季前半、打撃がなかなか上向きにならなかった。その筒香が本来の当たりを取り戻しつつある今、不慣れな三塁守備に入ったことで、彼は“イジラレ・キャラ”にもなった。チームのキャプテンに指名されたのは2015年。それ以前は口数も少なかったが、「チームをまとめなければ」との責任感で人前でも喋るようになった。
今回の三塁守備について、「チームのためなら、どこでもやる」と筒香は語っていた。守備に関するメジャースカウトの評価はイマイチだが、「チームを変える力」は、プラスとして評価されたはずだ。
(スポーツライター・飯山満)