大きく写っているのは女流怪談師として活躍している牛抱せん夏である。
ご覧のように顔がボロボロに崩れてしまっているかなり不気味な一枚であるが、もちろんこれは彼女の素顔ではない。
これは動画ファイルのシステム異常によってブロックノイズが生じてしまい、崩れてしまった編集中の一場面である(現在は修正済み。画像は編集にあたっていたスタッフが気になって残していたものである)。
さて、この崩れてしまった顔であるが日本の古典的な怪談である『四谷怪談』に出てくる幽霊「お岩さん」に酷似している。
『四谷怪談』の「良妻である岩が夫である伊右衛門に惨殺され、幽霊となって復讐を果たす」というストーリーは日本人ならば一度は耳にしたことがあるだろう。
お岩さんのトレードマークである潰れた右目は毒薬によって腫れ上がったものであり、夫・伊右衛門への死んでも死にきれない恨みの象徴であるとされている。
今回、牛抱せん夏の潰れた目はお岩さんと同様の右目であり、お岩さんの怨念が怪談の語り手である牛抱せん夏に宿ったと予想される。
お岩さんは古くから役者や関係者に不幸がおとずれる役として有名であり、『四谷怪談』を演じる前にはお祓いや供養が必要とされている。
なお、牛抱せん夏は『四谷怪談』をレパートリーのひとつとしており、8月30日に徳島県で行われる市川海老蔵主演の映画『喰女-クイメ-』の特別イベントで映画の題材となった『四谷怪談』を牛抱が実演する企画がある。撮影時期的にも非常に近く何かの因果性が感じられる(あまりに出来すぎているため補足しておくが今回の写真は徳島県で行われる『四谷怪談』のイベントではなく自身の主催興行『牡丹灯籠』のための動画であったことを改めて記載する)。
お岩さんの幽霊は時を越えて今も我々に何かを残そうとしているのだろうか…。
文:穂積昭雪(山口敏太郎事務所)