一時は“体力の消耗戦”と揶揄されるほど看板メニュー牛丼1杯の定価下げ競争に明け暮れてきた各社は、昨年暮れから今春にかけ、消費税率アップと牛肉の輸入価格高騰などを理由に値上げへと舵を切っていた。安い価格が魅力の牛丼は「デフレの勝ち組」と称されてきただけに、この大転換はデフレの終焉を印象づけた。それが期間限定とはいえ、再び値下げの3社揃い踏みである。「物価上昇率2%」を掲げていた安倍首相にとっても、この“裏切り”は頭の痛い話。背景には何があるのか。
「各社とも値上げを機に客単価が上がった半面、客数は大きく落ち込んでいる。これを回復する特効薬に選んだのが、値下げという名の“麻薬”だったということ。各社は恒常的な値下げに否定的なコメントを発表していますが、今回の値下げキャンペーンが成功したと判断すれば大きな誘惑に駆られる。1社がGOサインを出せば、他社が追随するに決まっています」(外食チェーン関係者)
そうなれば牛丼ファンは大喜びだが、新興国での牛肉需要が拡大しており、暫定値下げをプッシュした現在の割安な牛肉価格が永続する保証はない。従って一斉値下げがあるにしても、今回と同じ期間限定にとどまりそうだ。
「実は今回の期間限定値下げには、各社の秘めた魂胆がある。『すき家』にせよ『吉野家』にせよ、秋本番を機に定番となった鍋メニューを投入する計画です。それに備えて客足を回復させ、できるだけ多くのファン層を獲得しておきたいのが本音。まして鍋メニューは牛丼よりも価格が高く、その分収益に寄与する。鍋以外の商品メニューを豊富にそろえておけば、さらに集客効果と収益増が期待できる。今回の値下げはテイのいい“撒き餌”作戦に他なりません」(証券アナリスト)
それが吉と出ればまだしも“麻薬”の味にドップリ浸かるようだと目も当てられない。