母校・花巻東の先輩、菊池雄星(シアトルマリナーズ、前埼玉西武)との2度目が実現する前だった。大谷は「苦手投手」に苦しめられていた。
「メジャーデビューした昨年は、単なる偶然というか、たまたまそうなっただけだろうと思われていたんですが、ここまで続くと、大谷も苦手投手として、彼のことを意識せざるを得ません」(特派記者)
大谷キラーと呼ばれ始めた投手がいる。シアトルマリナーズの左腕、ウェイド・ルブランだ。34歳、キャリアハイは2018年の9勝。MLB実働11年目、08年、パドレスでメジャーデビューしたが、その後、複数球団を転々とし、昨季、マリナーズに拾われ、“やっと”先発ローテーションに定着した苦労人だ。その18年のキャリアハイの9勝を含めて、通算成績は39勝。また、15年、日本の埼玉西武に在籍したこともあったが、8試合に投げただけ(2勝)。そんな西武ファンも良く覚えていないピッチャーが「大谷キラー」として、米野球ファンの間で話題になっている。
マリナーズの所属するア・リーグ西地区に詳しい米国人ライターがこう続ける。
「真っ直ぐは140キロが出るかどうか、変化球を主体としたピッチングスタイルですが、球種が多いわけでもなければ、空振りの取れるような決め球もありません」
ルブランがマリナーズで掴んだチャンスをモノにできたのは、カットボールを有効に使えたからだ。「カット・ファスト・ボール」「カッター」とも称される変化球だが、要はストレートと同じ軌道で、バッターの手元で小さく曲がるもの。球速もストレートに近いため、見分けがつきにくい。このボールは、埼玉西武時代に習得したものだという。
18年は、大谷とは8打席の対戦があって、ノーヒット。打者に専念している19年も、3打席無安打(日本時間7月14日時点)。完璧に封じ込めている。
「西武時代に覚えたカットボールですが、このボールを覚えて飛躍的に成績が良くなったわけではありません。米球界に復帰後も好成績を残せず、球団を転々としております。たまたま、マリナーズでカットボールを多投したら、うまく行ったようです」(前出・同)
大谷の苦手について言うと、昨年8月のアストロズ戦では、こんなこともあった。リーグを代表する大エースのジャスティン・ヴァーランダーが、「大谷にチェンジアップを投げてみたら?」と投手コーチから助言された。ヴァーランダーはそれに従ったが、結果はホームラン。その後、ストレート主体のピッチングに戻し、大谷をねじ伏せている。
「ヴァーランダーはチェンジアップを得意としていましたが、ここ数年は『高めに浮くようになった』と言い、封印していました。なぜ、投手コーチがそのチェンジアップを勧めたかというと、大谷は緩急をつけたピッチングをされると、長打が出ていなかったんです。バットにボールを当てに行くだけ。『緩急が苦手かも』という、攻略法に関する仮説が出ていたからです」(前出・同)
ヴァーランダーと大谷の対戦成績は14打数3安打(18年)。ヴァーランダーは自慢の直球で押しまくる時もあれば、鋭角に曲がるスライダーで大谷を苦しめている。
「ヴァーランダーのスライダーは真っ直ぐとほぼ同じ球速」(前出・特派記者)
150キロ台後半の速球を投げるヴァーランダー。ルブランは140キロそこそこだが、カットボールもほぼ同じ球速を記録している。「ストレートの軌道、球速で来て、手元で変化する」という点では共通しているが…。
菊池はサイタマ時代も同僚だったルブランに、大谷と対戦したときの心象を聞き直したという。菊池は大谷との最初の対戦で3打数2安打1本塁打と打ち込まれている。NPB時代から対戦してきたので、「分かっていたつもり」になっていたのだろう。ルブランの助言が生かされれば、大谷が“サイタマ”に苦手意識を抱くことになりそうだ。(スポーツライター・飯山満)
※MLB選手のカタカナ表記は「メジャーリーグ名鑑2019年」(廣済堂出版)を参考にしました。