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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 惜しいことをしたものだ

 国税庁が昨年の「民間給与実態統計調査」の結果を発表した。私はこの統計が最も信頼できる賃金統計だと思っている。それは、税務の一環として作られる統計なので、ここで企業がウソをつくと税務署からにらまれてしまうからだ。
 さて、この統計で給与の状況をみると、昨年、民間事業所が支払った給与の総額は200兆3597億円と、前年に比べて4.8%も増えた。ちなみに一昨年は▲2.4%だったから、所得環境が一変するほど改善したことがわかる。
 昨年はアベノミクスで景気がV字回復した年だった。アベノミクスがサラリーマンに与える恩恵はなかったとよく言われるが、そうでないことは、この数字が雄弁に物語っている。

 給与総額が増えたのは、一人当たりの給与が増えたことと雇用者数が増えたことの両方が影響している。
 1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与は414万円で、前年比で1.4%増えている。一方、給与所得者数は、2.0%の伸びで、給与総額は3.4%増ということになった。こうした中で、源泉徴収された所得税額は、8兆7160億円で、前年比11.4%も増えている。
 ちなみに前年は▲3.1%だった。
 景気が回復したら給料が上がり雇用も増える。その結果、企業が支払う給与総額が増えて、税収が大幅アップする。昨年、まさにそうした好循環が起きたのだ。税収が二ケタも伸びたのだから、こうした状況を続けていけば財政再建に確実に向かっていっただろう。ところが、今年4月の消費税率引き上げで景気回復の芽を摘んでしまった。本当にもったいない話だ。

 しかし、今回の民間給与実態統計は、手放しでは喜べない事態も映し出している。それは、格差の拡大だ。
 まず雇用形態別にみると、正規雇用者の数は1.5%伸びたが、非正規は5.3%も増えた。雇用が増えたのは圧倒的に非正規だったのだ。一方、平均年収でみると、正規は前年比1.2%増の473万だったのに対して、非正規は▲0.1%の168万円だった。正規は非正規の2.8倍の年収を得ているが、その格差がさらに開いたのだ。
 また、所得階級別にみると年収100万円以下の人が7%増えているのに対して、年収2500万円以上は何と40%も増えている。低所得層と富裕層がともに激増したのだ。
 こうした格差拡大を税制面で是正することは、もちろん可能だ。例えば、所得税の累進度を強化して、高額所得者からより多くの税金を取って、それを低所得層に定額減税のような形で分配すればよいだけだ。ところが政府は、低所得層に負担の大きい消費税の税率を引き上げてしまった。これが格差拡大に拍車をかけてしまったことは間違いないことだ。

 現在、政府は住民税が課税されていない低所得層に対して1万円の臨時福祉給付金を支給しているが、格差縮小のためには焼け石に水程度の効果しかない。
 もしかすると、政府は、あえて格差の大きな社会を作ろうとしているのかもしれない。それが本当かどうかは、この状況で消費税率の再引き上げに踏み切るのか、あるいはTPPでどのような交渉結果を出すのか、雇用面の規制をどう変えるのかなどを見ていけば次第に明らかになっていくだろう。

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