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奈良の神社話その九 天照大神が降臨した「良き山」−−桜井市・與喜(よき)天満神社神社

 観音霊場の根本道場として古くから参詣者で賑わう長谷寺には、切っても切れない縁を語る神社がある。大泊瀬山または長谷山と称された與喜山に鎮座する與喜天満神社だ。

 由緒は『長谷寺霊験記』などに伝えられる。
 菅原道真公の神霊が長谷に現れ、長谷寺を開山した道明上人の御廟や観音堂、滝蔵神社に詣でた。菅公はこの地をいたく気に入り、「社を一つ作る地をいただけないか」と鎮守の滝蔵権現に願い出る。権現は東の大初瀬山の松の木を示し、快く譲られたという。「與喜山」の名称は権現が当地を「良き地」と伝えたことに因む。

 この初瀬の西側に出雲の地が続く。出雲人形は長谷寺名物の一つとして昔から有名だ。この出雲で勇者として名を馳せていたのが野見宿禰(のみのすくね)。殉死を防ぐための埴輪の創始者であり、また当麻蹶速(たぎまのけはや)を倒した相撲の祖であり、遠き菅原氏の祖先でもある。菅公の神霊が鎮座を望むのも納得といえよう。

 さて、「泊瀬」の名は、初瀬川の川淵にある磐座・泊瀬(とませ)石が由来とか。ある時雷神が、初瀬川上流の滝倉山に祀られる毘沙門天像を奪って天に昇ろうとして、像が所持する宝塔を川に落としてしまった。流れた宝塔がこの石の上で“泊まった”ことに因むという。雷神・菅公が霹靂(かむはせ・落が雷ちること)の地に現れるのは、古くから決まっていたのやもしれない。

 山中はもちろん、境内にも古代の信仰を残す磐座が多数点在する。天照大神の降臨伝説も残り、長谷観音を天照大神の本地仏と説いた長谷寺では、今も早朝に與喜山を礼拝しているという。

 山深き「隠口(こもりく)の長谷」に指す朝日は、さぞかし神々しいに違いない。

(写真「神さびた拝殿と本殿」)
神社ライター 宮家美樹

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