ことの発端は、中日が優勝を決めた翌日の10月19日のヤクルト戦(ナゴヤドーム)での出来事。最多勝、最優秀防御率のタイトルを狙う吉見投手は、この試合で中日が4-0でリードした展開で、5回表から今季初のリリーフ登板をし、2回を無失点に抑えた。試合はその後、7回以降を救援投手が1失点で乗り切り、4-1で中日が勝利。吉見投手はたなぼたの18勝目をマークし、17勝で並んでいたライバルの巨人・内海哲也投手(29)に1差をつけて、最多勝を確定させた。また、防御率は1.65(190回2/3)と下げ、このタイトルも確定させた。
中日は全日程が20日で終了。ライバル・内海投手の巨人の残り試合は22日の横浜戦(東京ドーム)のみ。この試合で内海投手が勝ち投手になっても、18勝止まりで、吉見投手が最多勝を逃すことはない。また、防御率は現在、1.74(180回2/3)の内海投手が9回を自責点0で投げ終えても、1.66となり、吉見投手には及ばない。唯一、内海投手が防御率で吉見投手を抜けるのは、延長戦となって10回1/3以上を自責点0で乗り切った場合のみで、現実的には厳しい条件。
ここで、吉見投手が批判の的となっているのは、防御率ではなく最多勝についてだ。19日の登板で、ふだん通り、先発して勝ち星を挙げたのなら、むろん文句は出ない。勝ち星を得るための方法論が問題だったのだ。この試合は先発の川井雄太投手(31)が4回まで無失点に抑えていた。川井投手があと1回投げて抑えていれば、白星は彼のもので、吉見投手は川井投手から勝ち投手を譲渡されたようなもので、それが“インチキ最多勝”とバッシングを受けているのだ。
しかも、吉見投手は09年も終盤の消化試合で、同様の手法で勝ち星を稼いで最多勝を獲得しており、“インチキ最多勝常習”として、批判もより強くなった。
ただ、終盤の消化試合で、自軍の監督がタイトルを獲らせるための采配、起用をすることは日本のプロ野球では日常茶飯事。打撃部門のタイトル争いでは、露骨な敬遠合戦や、打率を落とさないためにスタメンからはずれたりといった行為は、当たり前になっている。セ・リーグでは現在、長野久義外野手(巨人=26)とマートン外野手(阪神=30)が首位打者争いを、新井貴浩内野手(阪神=34)と栗原健太内野手(広島=29)が打点王争いを繰り広げているが、残った消化試合で醜い駆け引きが見られることだろう。
こういった行為は、例年、当たり前のように行われていることで、吉見投手だけ、ヤリ玉に上げるのは疑問。まして、このような手法でのタイトル獲りは、監督の判断によるもので、吉見投手を批判するのも、ややお門違いのようにも思える。
それよりも、問題なのは最多勝の中身だ。こちらの方が重要だ。吉見投手の今季の成績(交流戦は除く)を見ると、上位球団に対しては、ヤクルト戦が4試合3勝(19日のリリーフ登板は除く)、巨人戦が2試合1勝、終盤までAクラス入り争いをした阪神戦が4試合1勝1敗で、極端に登板数が少ない。一方、下位球団に対しては、広島戦が5試合5勝、横浜戦が5試合4勝1敗。つまりは上位球団との対戦を抑え、下位球団に多く登板して勝ち星を稼いだことが明らかだ。
吉見投手の同僚で、チーム2番目の10勝(14敗)を挙げたマキシモ・ネルソン投手(29)は、ヤクルト、巨人、阪神の3チーム相手に17試合3勝11敗。下位の広島、横浜相手には7試合4勝(交流戦は除く)。チーム方針でネルソン投手は、吉見投手とは逆に、上位球団中心に登板し、負けが込んだ。
一方、ライバルの内海投手は上位の中日戦が7試合3勝2敗、ヤクルト戦が3試合1勝1敗、し烈な3位争いをした阪神戦が7試合4勝2敗。下位の広島戦は2試合2勝、横浜戦は3試合2勝で(21日現在、交流戦は除く)、下位球団相手の登板が極端に少ない。今季の吉見投手と内海投手とでは、真逆の登板傾向があったわけだ。
どの球団相手に投げるかは、ローテーションの順番や日程上の都合がある。しかし、中日は意図的にローテーションの順番を変えることも多かった。消化試合で先発投手から、1勝を譲ってもらったことよりも、弱小球団中心に投げて、勝ち星を荒稼ぎしたことの方が、批判の対象になってもよさそうなものなのだ。とはいえ、筆者はそうではあっても、吉見投手が残した数字は立派なもので、批判する気は毛頭ない。
(落合一郎)