原作は2007年の秋にJFN系FM局でオンエアされたラジオドラマ。1回5分の帯番組で全36話。これを脚本家が1本のストーリーにまとめて映画化したものだ。
福島監督は三谷幸喜率いる東京サンシャインボーイズで演出補を務めていた。94年に同劇団が充電期間に突入したため、翌95年に自身が主宰する劇団「泪目銀座」を旗揚げ。これまで全11作品を上演してきた。
「芝居って幕が開いたら、ある程度まで役者任せなんです。そのぶんリハーサルに時間をかけることでルールを確立できる。でも映画は芝居に比べて、リハーサルにかける時間が少なかったかなぁと。見せ方や絵作りなど演技的なことについては基本的に舞台と同じです。むしろ映画では演技指導より、メンタルな部分のケアに気を使いました」
助監督、カメラマン、照明など、撮影スタッフとは全員初顔合わせ。しかも年配の人たちばかりで、緊張のあまり恐怖感すら覚えたという。
「最初は不安でしたけど、それは向こうも同じだったみたい。事前に何度もミーティングして、お酒を飲んで打ち解けてから撮影に入りました。芝居でもそうですが、裏方も含めて全員が楽しんで作った作品は、それが観客にも伝わります。やっぱり人に尽きると思うんです。そういういい人たちに恵まれれば、モノづくりの現場って芝居も映画もあまり変わりません」
撮影は10日間の予定を7日ほどで終了し、とても順調だったとか。
「ゲリラ豪雨が頻発してたので心配だったんですが、撮影を断念するような悪天候はまったくなかったですね。早朝に東京を出発するときは豪雨でも、ロケ地に着くと晴れてたりとか。年配のスタッフの方にも“監督、ついてるよ”って言われたほどです」
福島監督は芝居のみならず「やっぱり猫が好き」などテレビドラマの演出も手がけた経験がある。だが映画とテレビとでは充実感がまったく違うそうだ。
「キツいことはキツかったですよ。役者さんのスケジュールもあるし、余裕が持てなかった。20日もあれば楽だったんでしょうけど。クランクインからズーッと撮り続けて、気が付いたら終わってたって感じでしたね。でも、最後に“カット!”って叫んだときは気持ちよかったなぁ」
ベテランのスタッフに支えられたからこそ、新米監督ながらも撮影はスムーズに進んだと話す。
「皆さんは個々のポジションごとに先々のことを、例えば“雨が降ったらどうしよう”とかダメになったときのことを考えているんです。だから僕がダメだと思っても、すべてうまくいった。皆さんのおかげです」
この映画は電車の中で泣いている男を中心に、5人(犬1匹を含む)の乗客たちが物語を紡(つむ)いでいく。
「いい男たちの泣きっぷりと泣かない女たちの凛々(りり)しさを楽しむというか。泣くのが目的の映画ではなく、いつでも泣けるので泣かなずにニッコリしてもらう、そんな映画です」
今後もメーンの仕事は舞台演出だが、チャンスがあれば映画もどんどん撮っていきたいという。
「芝居は一瞬で消えますが映画は後世に残ります。一昨年子供が生まれたんですが、僕が演出している芝居を今は見ることができない。けど映画なら大きくなったら見せることができますから」
<プロフィール>
ふくしま さぶろう
1969年1月13日生まれ、岡山県出身。95年まで東京サンシャインボーイズに所属。同年、演劇ユニット「泪目銀座(なみだめぎんざ)」を旗揚げし、これまで全11作品を上演。また、テレビドラマ「ショムニ2」「世にも奇妙な物語」などの脚本を担当。
○映画「泣きたいときのクスリ」
ある日の夕方、電車の中で号泣している中年男性(中村まこと)がいた。それを見つめる5人の乗客たち。ある理由から「泣き薬師駅」で下車した龍一(大東俊介)、仕事中のエリカ(戸田菜穂)、駅員の竹野(袴田吉彦)、学校帰りの綾(佐津川愛美)、仕事帰りの洋介(遠藤憲一)。中年男の姿に違和感を抱く彼らだったが、やがて泣きたくなるような事件が迫る。