「親御さんの気持ちになれば、分かるだろ? 自分の子供にプロ野球で通用する実力があったとしても、将来、どうなるか分からないわけだし、大学で頑張れば、地元に帰って来て教員になるとか地道にやって行けるじゃないか。こちらとしては、誠意を持って交渉するしかない」
大学には『スポーツ推薦』『自己推薦』など、その競技における実績や素質によって、一般受験生よりも有利な条件で進学できる制度がある。プロ野球スカウトマンの『学歴』の言葉を『進学』に置き換えると、高校野球の現場指導者の悩みも見えてきた。
有望中学生とその両親が進路問題に直面したとき、大学進学率で最終結論を出す。ここ数年、こうした傾向はかなり強まってきた。高校側も「進学まで責任を持つ」と言わされるケースも少なくないという。
それが後々、自らの首を絞める事態に発展する。
「絶対に、試合で使わなければいけない部員が出てくるんですよ」(某私立高校監督)
進学まで面倒をすると約束した場合、それなりの“制約”も課せられる。その高校の系列に大学があればまだしも、大学側は全高校球児に対して、『スポーツ推薦』の門戸を開いているわけではない。高校時代、たとえば全国大会に出場したとか、高い成績を治めたという実績がなければ、セレクションを受験できないのだ。都市圏の有名大学、強豪リーグの大学ともなれば、その受験資格はさらに厳しくなる。大学を持つ『学校グループ』にしても、『付属』と『系列』ではその高校の立場は“微妙”に違ってくる。一般論として、後者の系列高校になると、「付属高校のスポーツ推薦入学者を決めてからの選考」になるので、希望者全員を送り込むことはできない。
つまり、試合出場させ、『実績』を付けてやらなければ、「進学まで面倒を見る」という約束を果たせないのである。約束が反故にされたとなれば…。悪い噂は広まるのも早い。中学・クラブチームの指導者も、有望選手の高校進路問題に強い影響力を持つと言われている。彼らも保護者からの進路相談を持ち掛けられる際、学歴の心配を聞かされるそうだ。
高校監督にすれば、「試合に出してやりたい」と思うのは“親心”でもある。だが、起用した選手が活躍するとは限らない。選手起用の縛りで大事な試合を落とせば、学校OB、後援会組織も黙っていないだろう。「あの監督では勝てない」と言われたら、最後。そんなふうに退任を迫られた高校監督も少なくないそうだ。(スポーツライター・飯山満)