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カネと野心に翻弄された 身売りシャープの無念…

 シャープが台湾資本の軍門に下るのか、それとも劣勢に立つ政府系ファンドが一発大逆転を仕掛けるのか。決断の最終期限とされる2月末が目前に迫ってきた。
 もっとも、高橋興三社長が2月4日の記者会見で「現時点でどちらが優位というのではないが、労力をより多く割いているのは鴻海(ホンハイ)だ」と明言したように、台湾の鴻海精密工業が着実に外堀を埋めている。一部には2月29日を待たず決着するとの見方さえ浮上している。
 「社長会見の直前までは政府系ファンドの産業革新機構がシャープの再建を主導し、液晶事業を分社化してジャパンディスプレイとの“日の丸液晶連合”を誕生させるシナリオが有力だった。かつて鴻海は、シャープに約700億円を出資して筆頭株主になる契約を結びながらも反故にした過去がある。シャープの不信感は根強く、首相官邸サイドから『技術の海外流出はもっての外』とのプレッシャーもあったようです」(経済記者)

 ここにいうジャパンディスプレイとは東芝、日立、ソニーの液晶ディスプレイ事業を統合した会社。そこへシャープを“政略結婚”させる他、家電事業は東芝の白物家電との統合などが検討されていた。早い話、シャープの生体解剖を伴う弱者連合シナリオだ。
 ところが1月30日、鴻海の郭台銘会長がシャープ本社を訪ねて支援額を7000億円(従来は5000億円)に積み増し、3000億円出資する予定だった産業革新機構との“熱意”の違いをアピールすると、形勢は一気に逆転した。郭会長は2月5日の昼前、報道陣を前に「3時から記者会見する」と余裕の表情を浮かべてシャープ本社へ入り、夕方5時半すぎに姿を現すと「今日は優先交渉権の合意書にサインした。交渉のハードルは90%乗り越えた」と胸を張ったのだ。
 これに対し、シャープは「優先交渉権を与えた事実はない」と否定したが、裏を返せば鴻海は当日の交渉でシャープ乗っ取りに90%の自信を持ったことを意味する。

 最大の決め手は前述したように支援額の引き上げだが、金融関係者は主力行の一つである「みずほの寝返りが大きい」と指摘する。みずほ銀行、三菱東京UFJ銀行の主力2行は「産業革新機構を通じたシャープ再建」をバックアップしてきた。その一角が、なぜ崩れたのか。
 「実をいうと、みずほは鴻海との取引が深く、1月末に銀行を訪問した郭会長の熱意に飛びついた。機構シナリオだと、メーン2行は債権放棄などで3500億円の金融支援を迫られる立場でした。ところが鴻海は銀行が保有する優先株を買い取るため、金融支援の必要がない。三菱東京にしても、内心は同じ思いでしょう」(前出・金融関係者)

 NHKが「シャープ、鴻海支援へ」とフライング報道した2月4日、シャープは鴻海に軸足を移しながらも機構との「両論併記」にとどめ、結論を先送りした。情報筋は「機構を“刺身のツマ”の形で残して置かないと鴻海が増長するとの政治的判断があった」と打ち明ける。果たせるかな、その翌日に飛び出たのが郭会長の優先交渉権発言だった。

 シャープの行方に首相官邸が強い関心を示しているのは間違いない。もし破綻すれば下請けを含めインパクトは大きく、アベノミクスを直撃する。とはいえシャープが外資の軍門に下れば技術が流出する。そこで浮上したのが機構支援シナリオだった。
 「とはいえ再三にわたるリストラで優秀な技術者がゾロゾロ転出し、もう技術流出は止まらない。まして機構支援ではシャープのいろいろな部門が切り離され、生体解剖が急ピッチで進む。その点、現在の経営体制維持を唱える鴻海の方がリスクは少なく、成長の余地があると判断した官邸サイドが、今では鴻海による再建支持に回ったのです」(永田町関係者)

 問題は鴻海が“公約”をどこまで守るかだ。何せ前言撤回の過去だけでなく、形勢が有利と見るや郭会長は「若い人に出資し、40歳以下の人は切らない」と発言、中高年層を対象にした苛烈リストラに含みを持たせた。これで経営権を奪取した暁には豹変も大ありだ。

 シャープ支援をめぐる攻防に一枚絡んできそうなのが、エフィッシモ・キャピタル・マネジメント。ご存じ、村上ファンドの関係者が運営する“物言う投資家”で、シャープ株の4%を保有し、先ごろ選定プロセスの透明性確保を求める書簡をシャープに送付している。
 「鴻海、機構どちらが勝つにせよ、決定の舞台裏を監視し続けるとの表明に他ならない。今後とも目を光らせるでしょうし、厄介な株主になるのは間違いありません」(市場関係者)

 にぎにぎしい面々もそろう中、果たしてシャープはどんな命運をたどるのか。

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