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戦後70年特別企画 “撃墜王”元零戦パイロット(笠井智一氏)が打ち明ける激戦秘話 「散った若者の犠牲の上に今の日本があることを忘れてはならない」(1)

 戦後70年、あの戦争の最前線を肌で体験した人は、そのほとんどが今や90代後半である。その中にあって、笠井智一氏は1926年生まれ。最前線で戦った海軍戦闘機パイロットとしては最年少の一人になる。
 「私が育った丹波の篠山(兵庫県)は陸軍の街でね。そこでたまに見かける海軍の白い制服がえらい格好良く見えたんですわ。女子学生にもモテそうやしね。決め手になったんは、母校に来た先輩・小谷雄二海軍大尉の講話です。演題は確か『制海権と制空権』。それを聞いて“これからは空の時代や!”と思い、予科練(海軍飛行予科練習生)を志願しました」

 '42年4月、激烈な競争率をくぐり抜け、笠井氏は甲飛第10期生として土浦空に入隊を果たす。しかしそこには、“格好良い”どころの話ではない厳しさが待ち受けていた。
 「お客さん扱いしてくれたんは初めだけ。あとはもう、軍人精神を注入される毎日でした。こらえらいところに入ったわと思いましたよ。でもよう考えたら、飛行機乗りいうのは一瞬の気の緩みが確実に死に繋がる。今になって考えれば、それで厳しく教育されたということですわ」

 甲飛第10期からは350人が戦闘機に進んだが、その約8割が戦死している。まさに最前線を戦ったクラスだ。
 「生き残ったんが不思議なくらいのクラスです。全体で1000人採用というのはそれだけ時局が逼迫していたということでしょう。特攻要員ではないにせよ、決戦要員ではあったんでしょうな」

 笠井氏の次の第11期生も1000人クラスだが、このクラスは乗艦実習の際、戦艦陸奥の爆沈事故に多数の練習生が巻き込まれるという悲劇に見舞われている。
 「予科練にいる間で飛行機に乗ったのは、入ってすぐの慣熟飛行同乗の1回だけ。あとはもう、ただ鍛えられるだけでした。飛行機の操縦訓練に入ったのは、予科練を卒業して飛行練習生に進んでから。飛練は平時なら1年が通常なんですが、なにしろ戦争中ですから、私らは5カ月でした。その後、戦闘機専修になり、実戦機を使っての延長教育が、これまた短縮のわずか20日間。20日間いうたら正直な話、離着陸が精一杯で、その他の空戦技術は、その後の実戦の中で覚えていくしかありませんでした。大変な毎日でしたよ。でも、命を粗末に扱われているという気持ちは不思議となかった。戦争なんだから死ぬのは当たり前。皆、それでなんとなく納得していましたよ」

 延長教育もそこそこに笠井氏たちは'43年、直ちに前線へ投入された。笠井氏の最初の実戦部隊は、四国松山の第二六三海軍航空隊「豹部隊」である。そこからサイパン、ペリリュー、パラオ、グアム、フィリピンのダバオと、最前線を転戦する。だが、戦地に在りながら、笠井さんが空戦に参加することは少なかったという。
 「マリアナ戦線初期では、練度不十分を理由に本格的な空戦には出撃させてはもらえませんでした。『お前らの腕で空戦させたら片っ端からグラマンの餌食や』というわけです。その時は悔しい思いをしたけれど、その判断がなければ私はきっと戦死していたでしょう。その意味で当時の上官には感謝しています」

 二六三航空隊はベテラン中心の布陣で戦ったにもかかわらず、米軍の圧倒的な戦力の前に大きなダメージを受ける。マリアナ戦が終わる頃には、否応なしに笠井氏ら若年搭乗員が中心戦力になっていた。グアムでは、伝説の名パイロット・杉田庄一一飛曹(当時)の指揮下に入る。
 「それまでの隊長の着任の挨拶いうたら、なんや精神論的なもんばっかりでしたが、杉田さんの挨拶は『俺が杉田や。皆、遠慮せずに付いてこい!』と、実に格好良いものでした。杉田さんは、山本五十六元帥が戦死した時の6機の護衛戦闘機隊の一員でしたけど、当時はそんなこと全然知りませんでしたし、御本人も話しもしませんでした。私なんか、戦後の戦記物で知ったぐらいです。私らがうるさく言われたんは、空戦技術よりも編隊飛行。『お前らが敵を墜とす? 何をおこがましいことを言っている。敵は俺が墜とすから、お前たちは俺が(機銃を)撃つ時に後ろから一緒に撃て』です。そうして墜とした敵機は共同撃墜にするわけです」
 墜とした敵機は共同撃墜−−。いわゆる戦記物には、個人の戦績を強調した“撃墜王”がしばしば登場するが、実際には当時のパイロット、少なくとも笠井氏の周辺には、そのような人物はいなかったという。

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