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〈目からウロコの健康術〉あなたのその「いびき」が危ない!日本人がなりやすい「睡眠時無呼吸症候群」の恐怖

 そもそも、なぜ人は「いびき」をかくのか。睡眠時無呼吸症候群の診断と治療に携わって25年、年間2万4000人を診療する「御茶ノ水呼吸ケアクリニック」(東京都千代田区)の村田朗院長はこう話す。

「いびきをかくのは、空気の通り道である気道が狭くなっているからです。人は寝ているとき、体を休めるために全身の筋肉が緩むわけですが、それは舌も例外ではありません。舌や口腔周囲の筋肉が緩み、重力によって下に下がることで気道が狭くなり、空気が通る際に気道の壁が振動することで音が発生するわけです」

 この状態がひどくなり、気道が完全に閉じてしまうと空気が入らなくなってしまう。つまり、呼吸ができなくなってしまう。すると、脳が命の危険を察知して覚醒し、呼吸を促す指令を出して喉を開かせ、空気が入るようにさせる。だがそれも一時的であり、また気道が狭くなっていびきをかくようになり、やがて無呼吸状態を起こす。前出の村田院長によれば、これがいびきと無呼吸を繰り返す仕組みだ。

 7時間の睡眠の中で、10秒以上にわたり呼吸が止まったり、止まりかけたりすることが1時間に5回以上繰り返す状態を「睡眠時無呼吸症候群」と言い、これらの回数が5回から15回未満だと軽症、15から30回未満が中等度、30回以上だと重症とみなされる。

 ではなぜ、いびきをかく人とかかない人がいるのか。村田院長はこう説明する。
「最も大きな原因は顔の骨格です。日本人を含む東アジアの人は顔が上下に長く、奥行きが狭いという特徴があり、あごが小さい傾向にあります。あごが小さいと喉が狭くなりますからいびきをかきやすくなります。つまり、日本人はそもそもいびきをかきやすい性質を持っているのです」

 こうした人種的な特徴に加えて、肥満のために喉に脂肪がついていたり、加齢や飲酒によって筋肉が緩みがちになったりすると気道が狭くなりやすくなり、発症リスクが上がるという。

 また、喫煙している人は喉の炎症と粘膜の肥大を起こしやすくなり、結果、気道も狭くなりやすくなるそうだ。

 患者の男女比について正確なデータはないというが、生理のある女性は女性ホルモンが呼吸を促すため無呼吸にはなりにくく、一方で閉経後は女性ホルモンの分泌が減るため男女間の違いはなくなるという。

 村田院長が運営するクリニックにおける患者の男女比は7対3であり、20代から90代のうち多いのは40代から70代だという。

 有病者の脳卒中リスク11倍に
 この病気によって睡眠の質が低くなると、夜間頻尿や日中の眠気、集中力の低下、疲労感などが起きやすくなるが、「本当に怖いのはさまざまな合併症にある」と、村田院長は次のように指摘する。

 「いびきや無呼吸によって血中の酸素濃度が低下すると、心臓が無理に血流を増やして全身の筋肉や臓器に酸素を届けようとするため、心拍数や血圧が上昇します。すると、高血圧症や狭心症のほか、命に直接危険を及ぼす心筋梗塞や脳卒中が起こる可能性も大幅に上がってしまいます。複数の研究データによると、睡眠時無呼吸症候群の人はそうでない人に比べて高血圧症と狭心症になるリスクがおよそ3倍、心筋梗塞は約4倍、そして、脳卒中を起こす可能性は11倍にも増えるという結果が出ています。最悪の場合は、睡眠中に不整脈が起きて突然死してしまうこともあります」

 また、頭の血管が拡張することで、起床後に片頭痛と同じような痛みが起きやすくなったり、交感神経と副交感神経のバランスが崩れて血中糖度を下げるホルモンのインスリンが効きづらくなることで、糖尿病になりやすくなったりもするそうだ。

★鼻から空気送る治療が最も有効

 診断までには2つのステップがある。まずは自宅でできる簡易検査を行い、異常が指摘された場合に精密検査を行うというもの。

 簡易検査では、自分で小型の機器を使ってセンサーをつけ、睡眠時における体内の酸素飽和度を調べて無呼吸の有無を確かめる。精密検査は医療機関に1泊して臨床検査技師が全身の20カ所にセンサーをつけて呼吸の状態や脳波、心電図などを計測する。精密検査はポリグラフ(PSG)検査と言い、大学病院や睡眠障害を専門にするクリニックなどで行われている。この流れを辿った上で睡眠時無呼吸症候群だと診断されれば、健康保険を利用して治療を受けることができる。

 治療方法としては、主に2つが挙げられる。無呼吸または低呼吸の回数が1時間に20回未満の患者を対象としたマウスピースを使う方法と、20回以上の人が適用となるCPAP(シーパップ)療法だ。

 マウスピースを着けると下あごが上あごよりも前方に出るため気道が広がりやすくなり、いびきの軽減が見込める。ただし、無呼吸をなくすことはできず、中等度以上の患者への効果は低いという。

 一方のCPAPとは、「経鼻的持続陽圧呼吸療法」の英語の略称であり、専用の機器を使って鼻から人工的に空気を送り、その圧力で気道を広げる治療方法。医療機関が提供する機器を患者が自宅で使用する。

 「CPAPの仕組みはシンプルですが、これが睡眠時無呼吸症候群の治療では最も効果が高く、低酸素状態も無呼吸もなくなります。結果的に合併症のリスクがなくなります」(前出・村田院長)

 費用はマウスピースの作製が約1万5000円で、CPAP療法が月に約5000円。いずれも人工的に気道を広げるものなので、継続的に治療を行う必要がある。

 軽症患者を除けば治療のメーンはCPAPになるが、肥満や飲酒、喫煙によって症状がひどくなっている人は、減量や飲酒量の低減、禁煙を図ることで症状を和らげる必要がある。

 また、仰向けでなく、横向きに寝ることも舌の位置がずれるため有効だそうだ。睡眠導入剤は筋肉を緩める作用があるため、症状をひどくする恐れがあることにも留意したい。

 「生活習慣病が進行すると心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクが高まることは、一般の方にも少しずつ知られるようになってきました。しかし、睡眠時無呼吸も生活習慣病と同様に重い合併症を引き起こすことは、まだまだ知られていません。家族などにいびきをかいていることを指摘されたら、睡眠時無呼吸症候群の診断と治療を得意とする医療機関で、検査を受けることを勧めます」(同)

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