そんな晴れの門出に水を差すように、早くもANA首脳が目をむくような聞き捨てならない観測が漏れてくる。いわく「投資ファンドとANAは同床異夢。その思惑の違いから遠からずJALを駆け込み寺にする事態が生じるのではないか」というのだ。
スカイマークの再建をめぐっては、米航空リース会社&米デルタ航空の連合軍とインテグラル&ANA連合軍が激突し、8月5日の債権者集会で投票にもつれ込む異例の展開となった。保有する債権額では劣勢だったANA連合軍が逆転したのは「ANAが土壇場になって大口債権者の仏エアバスに対し、将来の航空機発注を約束して寝返らせたことが大きい」(関係者)。それほどまでしてANAがスカイマーク支援に前のめりになった理由は何か。関係者が続ける。
「スカイマークは“ドル箱”と称される羽田空港の発着枠を、1日36往復便持っている。これが他社、とりわけ米国の航空会社に渡ることなどもっての外。だからANAは何としても自陣に取り込むべく策を弄したのです」
債権者集会での決着に伴い、新生スカイマークは資本金180億円でスタートした。出資比率はインテグラル50.1%、ANA16.5%、日本政策投資銀行と三井住友銀行が共同出資するファンドが33.4%である。情報筋によるとANAは当初、インテグラルの出資比率を抑え、銀行団との連合軍で過半数の株式を取得して主導権を握ろうとしたが、スカイマークが民事再生手続き中のため「監督委員の裁定を受けて渋々従った」のが真相らしい。
とはいえ、ANAは既にスターフライヤー、スカイネットアジア航空、エア・ドゥに出資している。新たにスカイマークが加わったことで、1990年代の航空自由化以降、次々と誕生した航空会社(LCCを除く)が全てANAの傘下に組み込まれたのだ。JALが一度経営破綻し、再生した事情があるにせよ、ANAの“総舐め”自体、尋常ではない。
「ANAはスカイマークの独立性を尊重すると公言していますが、額面通りに受け取る向きは皆無に等しい。第一、スカイマークはスターフライヤーやエア・ドゥと比べても運賃の安さが魅力です。それがANA主導で両社が足並みを揃えればどうなるかは明らか。結果、安さが魅力だったスカイマークは見向きもされなくなる。そうなったら再建が絵に描いた餅になりかねません」(航空アナリスト)
早くも不吉な兆しがある。ANAはスカイマークとのコードシェア(共同運航)に際し、ANAの予約システムを導入するよう要請している。この場合、収入はいったんANAに入り、約3カ月遅れでスカイマークに入る仕組みだ。詳細な顧客情報が筒抜けになることもあって同社は「独立性が保てない」と反発、新体制発足にもかかわらず問題は棚上げされたままだ。
「ブランドの独立性、料金設定、予約システム、どれをとっても火種になる。心中穏やかではないのが佐山会長です。彼は『3年後の再上場を目指す』と豪語した手前、1日も早く再建を軌道に乗せたいと思っている。ところがANAとの間に不協和音が流れれば再建自体が怪しくなる。90億円を出資して筆頭株主になった手前、佐山会長がどうすれば投資マネーを回収してオツリが来るかを考えないはずがない。そこで密かに囁かれているのが“JAL駆け込み寺”のアングラ情報です」(市場関係者)
JALは公的資金を受けて再建したことから2016度末まで新規投資や路線開設などが制限されている。従って、それまでは野心的なアクションを起こせないが、'17年4月以降は“縛り”から解放される。一方でANAは、その攻勢を警戒する余り航空会社を次々と自陣に取り込むダボハゼ路線にまい進したのだ。関係者が続ける。
「佐山会長がキーマンであり続けるのは明らかです。投資ファンドの評価はどれだけ利益を上げて出資者に報いるかで決まる。ならばANAに義理立てする必要はありません。もしJALが保有株を高値で引き取ってくれるならば喜んで手放すでしょう。それどころか、少々業績が悪くても飛びつく可能性がある。問題はいつ、どのタイミングで植木義晴社長がANAへの当てつけから再建手腕を発揮する絶好のチャンスと捉えるかです」
植木社長は往年の大スター、片岡千恵蔵の御曹司。投資ファンドを含め、“役者”にはコト欠かない。