もっとも、これで吉本もひと安心かと言えばそうではない。公正取引委員会からの外圧によって導入したエージェント契約の運用が不透明なままだ。
「吉本がここまで巨大化したのは、芸人の高額なギャラをピンハネし放題だったから。これができなくなれば、今までのような高い利益率は望めません。一方で大勢の売れない若手芸人を抱えなければならず、経営が圧迫されることは避けられない」(吉本興業関係者)
加えて、スキャンダルによるイメージの低下も深刻だ。ズブズブのテレビ局はともかく、世間に「笑えないブラック企業」という認識が刷り込まれた以上、CMなどで吉本芸人の起用に二の足を踏む企業も増えそうな雲行きである。
中でも影響が大きそうなのが、ここ数年の吉本が社運を賭けて取り組んできた国や地方自治体といった公共機関との仕事だろう。
「本来、世間にとってはどうでもいい芸人に対するパワハラや契約問題があそこまで批判されたのは、最近の吉本が権力にすり寄っていたことも大きかった。『こんなブラック体質の企業が公的な事業に参入し、税金が使われるのはいかがなものか』というわけです。今のところ公的機関は吉本との提携事業を継続する意向を表明していますが、今後の展開によっては切られる可能性もゼロではない」(スポーツ紙記者)
闇営業問題のダメージは想像以上に根深いようだが、実はここにきて、さらなる“危機”が吉本を襲っているという。それは「カジノ利権」への参入問題である。
吉本が以前からカジノ利権への参入を目論んでいたことは有名な話。公的な機関との仕事に積極的だったのも、政界とのパイプを作ってカジノ事業へ参画するための布石といわれている。
日本でカジノを解禁するIR推進法が施行されたのは2016年のこと。現時点では「国内で最大3カ所」と、まだ具体的な候補地は決定していないが、真っ先に誘致に立候補していたのが吉本の本拠地でもある大阪だった。
「当時の松井大阪府知事や吉村大阪市長が積極的な姿勢を見せ、埋立地の夢洲にIRを誘致するプランをぶち上げました。カジノは経済的なメリットが見込める反面、外国人観光客の増加による治安悪化やギャンブル依存症といった問題もあって、地元住民たちの反発が予想されています。その点、行政が積極的だった大阪は誘致合戦で一歩も二歩もリードしていたんです」(政治ジャーナリスト)
ガメツさにかけては定評のある吉本が、こんなボロい儲け話を見逃すはずはない。といっても、吉本がカジノやホテルの運営をやろうというわけではない。狙いはズバリ、ホテルに併設される劇場の利権だ。
IRはカジノだけでなくホテルや劇場などの娯楽施設などを併設した統合リゾート施設となり、売り上げは年間500億円以上とみられている。
「劇場で吉本新喜劇や所属芸人たちを起用することはもちろん、劇場運営そのものにも旨味はタップリある。今の日本のショービジネス界で吉本ほど劇場運営の経験が豊富な興行会社は他にありませんしね」(吉本興業関係者)
そこで吉本が目を付けたのが大阪の行政を牛耳る大阪維新の会で、両者は急速に接近する。昨年11月には2025年の国際万国博覧会が大阪市に決定したが、吉本はこの誘致アンバサダーに『ダウンタウン』を派遣するほど力を入れて支援。その結果、吉本は万博を運営する指定管理者『万博記念公園マネジメント・パートナーズ』にもなっている。
一方、安倍政権へのすり寄りも露骨で官民ファンド『クールジャパン機構』の出資で大阪城内にクールジャパンパーク大阪という大小3つの劇場を建設。今年4月には最大100億円の出資となるクールジャパン機構との教育事業もスタート。G20への協力呼びかけで安倍首相が吉本新喜劇の舞台に上がるという蜜月ぶりも話題となった。
ところが8月、事態が急激に動いた。これまでIR誘致を「白紙」としていた横浜市の林文子市長が「推進」を公言。この発表を受け、米カジノ・リゾート運営会社『ラスベガス・サンズ』が大阪IRへの入札参加を見送ることを決定した。
「サンズは大阪カジノの最有力事業者候補でしたからね。同社のアデルソン会長は日本のカジノ事業に1兆円の資金を投入すると語っており、大阪もこの資金をアテにしていた。入札参加を見送ったということは、サンズは完全に大阪から横浜カジノに乗り換えたということです」(前出・政治ジャーナリスト)
背景には政治的な駆け引きも見え隠れしている。ラスベガス・サンズはトランプ大統領の大口スポンサーで、日本のカジノは“トランプ物件”でもある。
「今回の林市長の決断も、トランプと昵懇の安倍首相から横浜を地盤にする菅官房長官に伝わり、林市長に圧力がかかったと噂されてます」(永田町関係者)
いずれにしても、大阪のカジノ誘致自体が怪しくなってきたことで、IR利権のため着々と外堀を埋めてきた吉本の野望にも暗雲が漂ってきたようである。